第15話

 死者を弔う保奈の後を玉兎が着いて回り、称え事の真似などをしている。そんな玉兎を見返り保奈は笑みを返した。

「死んでしまえば敵も味方もない」

 保奈が呟くと、玉兎は眉根を寄せて頷いた。分かっているのだろうか、と保奈は微笑みながら玉兎の顔を打ち守った。と、玉兎が驚いた様な顔になり、ひとつの遺体の方へと駆け出した。そしてその若武者をしきりに揺すぶるのだった。

 その様子を訝し気に見守っていた保奈だったが、はっとして駆け寄ると若武者の首筋に指を当てた。

「まだ息がある!」

 玉兎を制して下がらせると保奈は若武者の胸に手を当て、一心に祈った。玉兎が助力をする様に保奈の背に手を添える。

「ぐはっ!」

 若武者が咳き込みながら目を覚ました。そして武者としての反射なのだろう、刀を引き寄せると瀕死の者だったとは思えない素早さと力強さで切っ先を保奈の首筋に突き付けた。

「落ち着いて。私の力ではあなたの傷を完全に癒すことは叶いません」

 安静にしている事です、と告げる保奈を若武者は目を見開いて見つめた。その瞳には驚愕と怯えとがあった。

 何があったのですか?聞かせてもらえますか?保奈が問うと若武者は上体を起こして周囲を見回した。保奈がそっと若武者を支えた。

「あなたが、この者たちの弔いを?」

 若武者の問いに保奈が頷く。

「巫女が…救いの巫女が…死無常が、救いの巫女を…」

 我々は許されぬ事をした、と若武者は天を仰いだ。

 保奈はそっと若武者から離れ、慈光の元へと行くと跪いた。玉兎がとぼとぼと付いて行く。

「その方の名は?」

 刀で体を支えながら歩み寄ると若武者が尋ねた。

「慈しむ光と書いて、慈光と言います」

 ジコウ、と呟くと若武者も保奈に習い跪いた。


 

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