第14話

 白い頬と装束が返り血で朱に染まっていた。保奈を見据える由佐の瞳は何かが解き放たれた様な強い光を宿している。その凝視に耐えかねた保奈は覚えず目をしばたかせながら空を見上げた。月が赤みを帯びている、などと脈絡もない考えが浮かんでは流れていった。

「法師をひとり逃がした。後を追う」

 慈光様のご遺体を頼む、と由佐は身を翻して歩み始めた。

 暫時茫然としていた保奈だったが、由佐の言葉が徐々に意味を成し始めると震える膝で立ち上がり周囲を見回した。

「まさか、そんな…」

 そして、見つけた。

「慈光様!」

 先刻由佐がした様に保奈も慈光に縋って血涙を流すのだった。


 村はずれ、由佐は自らが張った結界を解いた。そして袂から鏡を取り出し指先で愛でる様に撫でた。

「これは、形見として頂いてゆく」

 その耳に、保奈の慟哭が微かに聞こえた気がした。



 

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