第9話
「どうしたのです?」
おろおろした様子の老婆に保奈が尋ねた。
「玉兎が、玉兎が、いないんじゃ」
保奈に取りすがりながら老婆が答えた。保奈は老婆の手を取り、安心させる様に頷いた。その間にも難を逃れようと村人がふたりを追い越して行く。
「いつからですか?」
「分からん。途中まではわしに付いて歩いておったが。ふと気が付くといなかったんじゃ」
しっかり手を握っておけば、と老婆は胸を叩いて自分を責めた。保奈はその手を抑え、老婆の慚愧の念に潤む目を見つめた。
「私が見つけますから。おばあ様はここにいらしてください」
それだけ言うと保奈は逃げ惑う人々の流れに逆らって駆け出して行った。その背中を老婆は茫然と見送った。
おそらく玉兎は村に戻ったのだろう。急に村を離れなければならい事、皆の不安気な様子、全てが玉兎には理解を超えた事に違いない。怖くなっていつもの自分の居所に逃げ帰ろうとしたのだろう。そこにはもう、迎えてくれる人などいないのに。
急がねば。
保奈は玉兎の無事を願いつつ駆けた。
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