第8話

 無益な殺生は好まぬ、退いてはもらえぬか。

 慈光が穏やかだが威厳の籠った調子で言った。最も戦慄したのは死無常だった。退くべきであろう、できるのならば。

 これは手にかけて良い存在ではあるまい。若犬丸は慄きつつも一方で恍惚としていた。戦乱の世、あちこちに救世を唱えて己を誇示する神仏の徒が現れた。いずれもまがい物であった。しかしこの巫女は、或いは信じるに足る者なのではないか。そんな想いが若犬丸の逡巡を生んだ。

 あの法師、やっかいだな。後ろに控える由佐は案じた。長引けば、慈光様のお身体は…

「さあ、刃を納められよ」

 慈光の言に思わず従いそうになる手勢の者もいたが、見咎める同輩の手前、柄を握りなおすのだった。

「臆するな!たかが巫女のひとりふたり!」

 手勢の中からひとり、気勢を挙げ飛び出す者があった。

「待て!」

 若犬丸が叫んだが、遅きに失した。 

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