第2話
「巫女様、どうぞ、こちらのほうへ」
腰の曲がった老婆が慈光たちを離れに案内してくれた。こんな処で申し訳ない、と老婆は何度も詫びを言った。感謝します、と慈光が礼を述べながら肩にそっと触れると、何か感じたのだろう、老婆は不思議そうな顔をした。そして慈光の後ろ姿に手を合わせた。
「水を汲んできます」
旅装を解くと休む間もなく保奈は出て行った。
慈光は荷を下ろして床に座ると目を瞑って顔を伏せた。その姿を見ていた由佐は意を決して予てから心にあった事を言った。
「慈光様、一度、里に戻ってはどうでしょう」
慈光は顔を上げると、少し驚いた顔で由佐を見た。
「路銀も尽きかけております。それに、慈光様のお身体も心配です」
由佐が深々と頭を下げながら言うと、慈光はやつれた顔に笑みを浮かべた。
「そうか、そうだな」
慈光の返事を聞いた由佐の目に涙が滲んだ。
保奈が水を汲んで戻って来た。直ぐに湯を沸かし、茶の準備を始める。
「お前たちにも苦労をかけたな」
慈光が言うと、何の話ですかと保奈が問うた。
「旅に区切りをつけて、里に戻るのだ」
保奈は手を止めて慈光を見つめた。そして、深々と頭を下げた。
「これまでの慈光様のご苦労を思うと、わたしは…」
声を詰まらせた保奈の背中を慈光が優しく擦る。
「今夜は、ゆっくり休もう」
由佐も保奈も涙を拭いながら頷くのだった。
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