闇堕ち巫女は赤い月の下で微笑む
古狸杢兵衛
第1話
癒される事のない徒労感が、由佐の身を包んでいた。
来る日も来る日も師の慈光に従い、戦禍に見舞われた地を廻り、傷ついた者や病に侵された者に救いの手を差し伸べ、死者を弔った。なお煙の燻る焼け落ちた村から、飢えと病で滅びに瀕した村へと。
慈光の「力」は多くの者を癒した。有難い御業の噂が広がる。救いを求める者たちが野に溢れた。
無論、慈光の「力」とて無限ではない。
由佐には慈光の「力」に縋る者たちが慈光の命を食い尽くそうとしている餓鬼の群れに見えた。
師よ、いつまで続くのですか?
その問いを由佐は何度も飲み込んだ。御業を行う代償としての苦痛を耐え忍ぶ師の姿が、由佐の問いを拒絶していた。由佐はただ、師のために祈った。
この旅には由佐の他にもう一人、保奈と言う供の者がいた。凡庸な力しか持たず、由佐の目には時に愚鈍とすら感じられた。しかし保奈は、どのような悲惨なものを目にしても穏やかな笑みを絶やさず、淡々と自らの務めを果たすのだった。
不思議な子だ、と由佐は思った。
「きょうは、この村に逗留させていただきましょう」
由佐が言うと、慈光は首肯した。
村は、幸いにも未だ戦禍を被らないようだった。
「しばらくここでお待ちください。私が行って参ります」
荷物を頼む、と保奈に託すと由佐は歩き巫女を数日受け入れてくれるか尋ねるために村道を上った。
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