第11話 私ってもしかしていじわる? なの? EP5
体を動かさず、ただ水の中に浸っているというのは、意外と体が冷えてくる。
そそくさと、プールサイドにあがり、真っ青な空から照り付けるさんさんとした太陽の光を浴びた。
「ああ、太陽の光の温かさが身に染みるよぉ――」
そんなことをぼっそりと言いながら、体育座りで、プールサイドにめぐらされた金網に背中を託し、ぼうっと、はしゃいで泳いでいるクラスの女子の姿を見つめていた。
太陽の光は絶大だ。冷え切った体をこれほどまでに、温めてくれるとは思ってもいなかった。
次第に体があったまり、なんだか意識がどこかに引っ張り込まれそうになる。楽しそうにはしゃいでいるみんなの声を耳にしながら、気持ちよさに包まれていった。
なんだろう、クラスの子たちの水着姿。みんなほんとスタイルのいい子ばかりだ。
私なんか全身が『ぷにゅっ』としたと言うか特に下半身は、ぷにゅぷにゅ。ぽよんていう感じ。でも自分で言うのもなんだけど、デブではないと自負はしている。
最近は、このバストがなぜ、育たないのかと言うことに、自分の体に少々いら立ちを感じている。
みんな見た目はそれなりにある。しかもあの揺れ方は結構あるよね。
なんて、いつしかクラスメイトの女子の体観察をし始めていた。
そう言えばあの子たち。一塊になっている子たちの顔ぶれを見ていると、更衣室で「もうこっち側になった」なんて言っていた子だ。
避妊しなきゃねとか……それって、さぁ―。セックスしてるっているっていうことだよね。
ああ、あの子ももうバージンじゃないんだ。それにこの子も……あ、この子ももしかしたらもう経験済みなのかなぁ。なんか体がそう訴えているような気がするんだけど。
体が訴えるってなんだろうね。
ああああっ、私もしかして欲求不満なのかなぁ。
性、セックスに興味がないって言ったらそれは大ウソ! 本当は多分ビッチでものすごくエッチなんだろう。
ただ……今の私の迷いは。その相手の対象が、男性であるのかそれとも同じ女性であるのかと言うことだ。
最も今は春香が好き。だから恋愛の対象は女性。――――いわゆる同性愛。百合。ということなんだろうねぇ。
でも男の子に全く興味がないって言う訳でもないんだよね。……これが。
一般的に多くの恋愛小説は基本、男女間の心の揺れを描いて物語になっている。
その中でも何か引っかかるというか、こんな私だから、そう思ってしまう自分がいるからだろうかこの句が心のどこかに引っかかっている。
『なかなかに
《成就出来ない恋ならば、初めからそんな恋はしなければいい》
実らない恋ほど空しく、かなしいものは無いんだよ。どんなに告白したって実らなければ意味はない。
実る恋。そして実ることのできなかった恋。
それの線引きはどうやってできるんだろう。
お互いの気持ち?
それしかないのかぁ。
そんなことを考えているうちに、体育のプール授業は終わっていた。
着替えを終えて、教室に戻るときに春香に。
「水着ありがとう。洗濯して返すから明日まで私持っていてもいい?」
「あ、……べ、別にせ、洗濯なんかしなくたっていいよ」
「ええ! そんなの悪いよ」
「い、いや」なんか小さな声で、すっと私の顔から視線をそらし「そのまま返してもらった方がありがたい」
「ん?」なんか聞き間違いだったのかな? あんまりにもちいさな声だったから、よく聞き取れなかったんだけど。
次の授業のチャイムが鳴った。
「あ、ほら急がないと、もうチャイムなちゃってる」
「う、うん」となんか、にえ切らない春香の様子を後にして、教室に入った。
プールの後の授業。なんだか体が重いというか、疲れているというか? ただ、水に浸かって、ブールサイドで日向ぼっこしていただけだけど。
このぐったりとくる感じは、とてつもない睡魔を呼び寄せてくる。
しかも、窓からふんわりと流れて入ってくる風が、とてもやわらかくて、少し冷えた? いや冷えてはいないだろうけど。その体に風がまとうと、私の意識はこの世界から引き離されてしまう。
この授業が終われば、昼休みだ。
何とか乗り切らないと。……でも意識は次第に遠のく。
ああ、まじめにやばい。
まじめに意識が遠のく。
ふと視線を前の方に向けると教科書をたてて、堂々と居眠りしている子もいた。そんな度胸なんかないよ。
具合が悪いって言って、保健室に逃げ込もうか?
でも、そんなことしたら、ものすごく注目浴びちゃうんだよね。それって恥ずかしい。
ここは今、私を犯している睡魔君と戦わないといけないんだ。
でも睡魔君……とてもテクニシャン!
私の弱いところを容赦なく攻めてくる。ああ、もう意識が半分以上持っていかれてしまったかもしれない。
それでも、今ここで落ちるわけには行かない。
戦おう! 打倒睡魔君!
しかし彼は上位クラスの魔導士だった。
へっぽこ剣士のこんな私が、まともに太刀打ちなんか出来ないほどの実力の持ち主。その力差はいわずと知れている。
「まだ抵抗する気かい?」
負けるわけにはいかない!
「も、もちろんよ!! 今なたに負けたら、私……」
「そんなこと言っても、もうすでに君は僕の魔法の餌食になっているんだよ。ほうら、自分の体をよく見てごらん、もう時期君の体は消えていくんだよ。そしてその体は夢の世界へと送還されるんだ」
だ、だめだ……。もう私にはなすすべがない!
その時だ、ゴン! と頭に軽い痛みを覚えた。
「なぁ宮崎優奈。僕の授業そんなに眠くなるのか? 必死にこらえてくれるのはいいんだけど、あまりにも、その苦痛そうな顔を見ていると、いっそうの事、熟睡してくれた方が僕としては気が楽なんだけど」
「えっ、あっ、はい……。す、すみません」
顔から火が出てきそうだった。
おかげで睡魔君がかけた魔法の呪縛からは解放されていた。
ふと時計を見るとあと10分。もうじき、授業が終わる。
でも吉岡先生にあんなこと言われたのは、ものすごくショックだった。
吉岡先生は幽霊部活の文芸部の顧問。あ、正式な部活じゃないから顧問ということではないんだけど、あの書庫。倉庫の管理をしている。だから、私があそこを使うのは吉岡先生の許可を得ている。
私の唯一の理解者でもある30歳男性。黒縁の眼鏡に天然パーマの、ちょっと可愛く見える先生だ。
「はぁ―」と深いため息をして何とか授業を終えた。
昼休みだ。
お昼を食べる。お弁当を食べる気力など今はない。
あの時一瞬睡魔君の呪縛から解放されたけど、まだ私には術がかけられたままのようだ。
ふらふらとする足取りで、無意識のまま。
足は保健室へと向かっていた。
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