考え事をしながらも、神田駅を経由し定刻通りに台東区にあるJR御徒町駅に到着することができた。乗り換えが1回だったのと、神田駅の構造が複雑ではなかったので、頭が思考でパンクしていても迷子になることはなかった。


 あと少ししたら俺が通う高校――東京都立白美はくみ工業高等学校――の正門に、生徒として足を踏み入れることになる。

 

 そう考えたら、もう腹を括るしかないのだと思えるようになってきた。どんな気持ちで、正門をくぐればいいのかは未だにわからないが、『行ってしまえば何とかなるだろう……!』と根拠もなく開き直っている自分がいる。


 傷一つ付いてない新規SUICAで北口改札を出て左に向かうと、俺を立ちふさぐかのように、吉岡本店ビルが堂々と建っていた。それを横目に大通りに出ると、道路の向かい側にかの有名なアメヤ横丁の看板ゲートが見える。レトロな雰囲気を感じさせるその看板は、アメヤ横丁の歴史を物語っているようだった。


 残念ながら、アメヤ横丁の先に高校があるわけではない。看板のデザインに引き込まれながらも、俺は大通りを真っ直ぐ歩いた。あと7分も歩けば校舎が見えるだろう。

 しっかし随分と東京らしいというか、ごちゃごちゃした場所に高校があるなぁ。勉強する場所じゃなくて遊びに行くところだろここ。

 

 街の雰囲気を肌で感じながら歩いていると、いつの間にか白美工業高校の校舎が俺の視界に入った。

 校舎全体が近代的なデザインをしていて、正面奥にはガラス張りの渡り廊下が1階、2階共に両側の棟を繋いでいる。校舎を囲むようにして桜の木が植えられており、そのおかげでコンクリート造りの校舎の壁からは重苦しい雰囲気を感じない。

 受験の時は細部まで観察する程の余裕はなかったが、改めてみると美しい校舎だ。


 「――ここが今日から俺の学び舎……か。」


 覚悟を決めて敷地内に足を踏み入れた。ふと辺りを見回すと、何故だか周りの人の様子が騒がしい。そして、皆足を揃えて1年生棟の昇降口に向かっている。


 「めっちゃ美人な女の子が1年棟の昇降口に居て、今人だかりが出来てるらしいぜ!」

 

 「ガチで!?1年棟ってことは新入生かな?見に行こうぜ!」


 上級生と思しき2人の男子生徒が、噂をしながら俺の横を走り抜けていった。なんだ?美人な女子生徒って言ってたか?ちょっと気になるな……どちらにしろ1年棟には行かざるを得ないから、行ってみよう。


 俺はさっきまでの緊張も忘れて昇降口に向かった。すると、そこそこの人だかりが出来ていた。男子生徒が多いが、中にはセーラー服を着た女子生徒も人だかりの一部と化していた。俺は迂回をして、そののご尊顔を拝むことにした。


 「君ってさ、新入生だよね?どこのクラス?」


 「めっっちゃモデル体型だね!私と友達にならない?」


 多くの生徒から質問攻めを受けていたは、この工業高校に良い意味でふさわしくないようなルックスをしていた。

 グレーが混じっている黒色の髪は、ロングストレートで、見るだけでもその艶やかさが伺える。拝みたいと思っていたご尊顔は、王道の美人顔だった。迫りくる質問に柔軟に対応しながらも微笑みを崩さないその姿は、まさに天女そのものだ。


 『こういう、入学時点でヒエラルキートップの女子は高校生活イージーモードなんだろうなぁ。正直、ちょっと妬ましい気持ちもある。周りの奴らも金魚の糞みたいに取り付いてワーキャー騒ぎやがって。』

 捻くれた思考が俺の脳内を占領していく。そのせいで目の前のことに興味を失っていった。


 俺は教室に向かおうと、視線を昇降口に戻そうとした。しかし、俺をじっと見つめる視線があることに気づいた。その視線の正体は、人だかりの中心で人気者の扱いを受けているのものだった。


 そのは、まるで旧友を見つけた時のように目をまん丸くしたと思ったら、獲物を見つけた肉食獣のようにキッと鋭い目つきになった。明らかに俺に対しての視線だとすぐにわかった。


 あまりにもその噂の女子生徒が俺に対してを鋭い視線を送るもんだから、取り囲んでいた生徒もその視線に釣られて俺の方に注目しだした。


 変に目立つことを恐れた俺は、その鋭い視線の意味も分からぬまま、逃げるようにして昇降口に入っていった。


 『なんだ今の!?どう見ても俺に対する視線が、他の生徒に向ける視線とは違かった!俺、そんなに怪しい人間に見えるか??』


 疑問は残るが、なんかの間違いだろうと開き直った俺は、下駄箱に靴をしまう。

 むしろ、んなことより俺は1年次のクラスメイトの方が気になっていた。

 

 昇降口内の壁に貼ってあった、クラス名簿の張り紙にサッと目を通し、自分が所属する1-Aへと向かった。

 



 




 








  

 


 

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