第3話



「その時に食べたのがこの“緑のたぬき”ってわけ」


「もういいだろう。食べるぞ」



お父さんは観念したのか口を挟まないで聞いていたけど、砂時計の砂が全部落ちたのを確認すると話を終わらせるように言ってカップ麺の蓋をペリペリ外し始める。



「これなら此方でも向こうでも売っていたから『離れてても同じ味が食べれるね』ってお父さんが」


「なっ、お母さんが言ったんだろう!」


「へー…」



まさか、ちょっとした好奇心で聞いた質問の答えが両親の甘々エピソードだなんて思っていなかった…。



「でも、電話越しに同じもの食べて喜んでたじゃなーい」


「それは…」


「クリスマスケーキも一緒に食べたかったって言ったのはお父さんの方ですからね」


「もう勘弁してくれ…」



恥ずかしそうに蕎麦を啜るお父さんの顔はなんだか少し赤くなっていて、見てるこっちが恥ずかしいけど少し微笑ましい。



「ねーお父さん耳まで赤くなってるよ?」


「なっ、ちが、炬燵が暑いんだ、切るぞ」


「えっちょっとやめてよ!」


「ほらほら二人とも、お蕎麦が伸びちゃうわよ」


「うっ」


「はぁい」



食べなれた味を口に運ぶ。これはお母さんとお父さんの思い出の味だったのか…。


私もいつか誰かとそんな思い出の味とか出来るのかなぁ。



「来年もお側に居てくださいね」


「…ん」


「………私も居るんですけど」


「やだ、私は二人に言ったのよ」


「ほんとかなぁ」


「ほんとよ」



コロコロと笑うお母さんはちょっとずるいくらい可愛く思えて「仕方ないなぁ」と眉毛を下げた。


まぁ私も、もう暫くはお母さんとお父さんの思い出の味に混ざらせて貰うとしようかな。





「でも危なかったわよねー」


「何が?」


「たまたま同じ味のところだったけど東西で少し違うらしいわよ?」


「そうなのか!?」


「えー…」







━完━


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