プロローグ 2
少女は目をつぶる。常人には見えない光の筆が、少女を中心に魔法陣を描く。それは、一つではなく、複数の魔法陣。複数の体系の魔法を同時に駆使するための、その力の土台であり、複数の体系の魔法を同時に駆使出来る少女の、その負担を減らすための用意でもある。
その魔法陣に沿うように、少女は腰の
灰は魔法陣に沿って床に落ち、それに伴って魔法陣はやわらかい光の幕を、まるで床から生えるオーロラの如くに放つ。空中に留まる水晶はそのオーロラを受けて輝き、ささやかだが清浄な光をあたりに振りまく。
くるり、くるり。少女はそのまま二度ほどその場で周り、充分に水晶と場の空気を攪拌し、そして周りながら抜いた
深く息を吐き、大きく息を吸って、少女は目を開け、最初の呪文を振動させる。
「オムニポテンス・アエテルネ……」
この地の精霊にもっとも馴染む体系の魔法で、少女はまず身の回りの雰囲気を、触媒の力を借りて清浄化する。
「……レ・オラーム・エイメン……偉大なる魔法使いマーリーンに連なる我、ユモは、今ここに精霊を使役し、我の思いを成し遂げんと欲す。精霊よ、遅れる事無く現れ出でて、我の求める全ての縛めを解き放て……」
聖別された清浄な雰囲気の中、ユモと名乗った少女は先達と自分の名において、精霊を召喚し、使役し、その対象に言霊を浴びせかける。清められた空気の中、少女の声と共に触媒の灰と水晶は光を増し、回転を速める。
「……鍵よ
歌うように唱えるその言霊は、かたくなに閉じようとする封錠の
「……なにかしら?これ……」
ユモは、丁重に精霊の退去の義をしめくくってから、その小箱を手に取り、開けてみた。
齢十二才の少女の手にずっしりと重く、いかにも頑丈そうでありつつ、大きさは少女の両の手で収まるくらいでしかないその黒い小箱の中には、ある意味見慣れた水晶玉が二つと、見たこともない
水晶玉は、それはユモにとって見慣れたものであった。それは、一つは明らかに『非常に淡くした太陽光を放つ』魔法を永続化して封じたものであり、もう一つは、その魔法が消費する
とはいえ、今ここに在るこの二つの水晶玉は、明らかに自分とは比べものにならない位の高い技量を持った魔法使い、あるいは錬金術師の手になるものである事が明白だった。それは、貯め込んだ
そして。もう一つの黒い
それは、明らかに異質だった。二つの水晶玉は普通に、もう一つの黒い
かざして、ユモは驚愕の余りに息を呑む。この
ユモの知る限り、地球上の自然の鉱石ではあり得ない特性。
「何……これ……」
ユモは、空恐ろしささえ感じつつ、その漆黒の
明らかに、何らかの手が入れられた、言うまでもなく錬金術的な、それも怖ろしく高度な
ユモの知る限り、これほどの錬金術、いや魔法を駆使出来るのは。
「……これ……
ユモの知る限り、こんな事が出来るのは、
「……けど……」
だが。これだけは、魔女見習いであるユモにも分かる。
よく似ている、本当に、よく似てはいるが。
「……違う」
だが、少しだけ、ほんのすこうしだけ、
これは、
「……一体、誰が……」
娘と母である自分と
「
書斎のドアをノックする音に続いて聞こえたその声、よく通る青年男性の声に、完全に油断していたユモは飛び上がるほど驚き、その拍子に三つの球を、左手の二つの水晶玉と、右手の
強く、それはもう強く、一切の光が中の宝石に届かないくらいに。
「……
その声の主である青年は、居るはずだが返事のない『
書斎の合鍵を取りに一度店のカウンターまで戻った青年と、事情を聴いて一緒について来たメイドが改めて
そこには、カーテンの隙間から差す朝日にきらめく、消滅しきらなかった灰と水晶の微粒子が舞っているだけだった。
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