エピローグ ふたたび三人で ※書籍二巻発売!

 知香の婚約問題は冬華の暗躍のおかげで解決した。婚約は解消。転校の話も白紙。


 あまりにもあっさりと解決したので拍子抜けしたが、つまり、冬華は近衛家内部の家庭問題にまで介入する政治力があるということだ。


 近衛家当主が同意した婚約をひっくりかえしたわけで、関係者をどういうふうに説得したのかはかなり気になる。


 冬華は今は透の味方だが、敵に回すと怖い人間だ。


(それに……とんでもない約束もさせられたし)


 近衛家の当主を目指す。透はそう冬華に約束した。

 それは驚くほど困難な道だ。


 でも、ともかく彼女のおかげで平穏な日常が戻ってきたわけで。


 冬華と話した一週間後の夜。


 今、家のリビングでは愛乃と知香が楽しくゲームをしている。


「やった! またわたしの勝ち!」「あ、愛乃さんずるい!」


 二人がやっているのは、大人気の格闘ゲーム。有名ゲームのキャラクターを操作して、画面外に落とせば勝ち。

 

 意外にもゲームは愛乃の方が得意で、お嬢様の知香は苦手らしい。


(まあ、でも、二人とも楽しそうだな……)


 こうしていると二人とも本当に普通の女子高生にしか見えない。


 ちなみに透は今まで皿洗いをしていた。押し付けられているわけではなく、家事分担で今日は知香が料理、透が片付け、愛乃がお風呂掃除……みたいな感じにしているのだ。


 ちょうど透が食洗機を回し始めてリビングへと向かうと、愛乃と知香がぱっと顔を輝かせてこちらを見た。


「ね、透くん! 一緒にやろ!」「と、透には勝てるはずなんだから!」


 透は苦笑すると、ソファの二人のあいだに座った。

 三人並んで座るのも慣れつつある。


 平和な日常が戻ってきた。三人での同棲生活。

 ただ、これまでと違うことがある。


 透と愛乃が恋人同士になったことだ。普通なら、知香は疎外感を感じるところなのかもしれないけど……。

 

 知香は全然平気そうだった。

 それを言われると、知香は肩をすくめる。


「だって、もともと透と愛乃さんは恋人みたいなもので、婚約者だったし。いまさら大した違いはないでしょ?」

  

「彼女になったら、もっとイチャイチャするよ?」


 愛乃は小首をかしげる。


「まあ、それは羨ましいし、悔しいけどね……。でも、平気。私には透との幼馴染としての絆があるんだから」


 ふふっと知香が笑う。

 そして、知香が透の膝に手を置き、その柔らかい手のひらで、そっと撫でる。


 例の体育倉庫の一件以来、知香は以前より積極的になった。

 吹っ切れたのかもしれない。


「まだ、私は三人でのポリアモリーを諦めていないんだからね?」


「うん。でも、わたしは透くんを独り占めするつもりだから」


 愛乃ははっきりと言い、知香とばちばちと視線で火花を散らす。


「そうだ! お風呂でご奉仕勝負する?」


「ご、ご奉仕勝負って、な、なにそれ?」


「透くんを気持ちよくさせた方が勝ち、みたいな!」


「そういう破廉恥なのはダメでしょ」


「えー、知香さんだって、透くんの子どもを妊娠するつもりだったくせに」


 言われて、知香はうっと言葉につまった。

 こないだの体育倉庫の一件では、知香はたしかに子どもを産みすらするつもりだったようだ。


 愛乃がえへんと大きな胸を張る。


「わたしはいつでも妊娠したいけどね」


「得意げに言うな!!!」


 くすくすと愛乃は笑う。からかわれたことに気づいた知香は、頬を膨らませていた。


「ね、知香さん。お願いがあるの」


「な、なに?」


「『知香ちゃん』って呼んでいい?」


「へ!?」


「その方が可愛いもん」


「そ、そう?」


 知香は照れた様子で目を伏せたが、やがてうなずいてしまった。

 愛乃が「やったー! 知香ちゃん、だね」と言うと、知香は顔を真っ赤にする。


 でも、まんざらでもなさそうだ。


 知香は三人での生活を望み、愛乃は二人での生活を望んでいる。

 ただ、今の生活は二人どちらにとっても楽しいもののようで。


 それに、愛乃も一度は知香の婚約解消のために、三人での生活を選ぼうとしていた。

 絶妙なバランスの上に、愛乃、知香、そして透の関係は成り立っている。


 透は愛乃を一番に大事にしたい。同時に負い目のある幼馴染の知香にも傷ついてほしくない。


 これからは透の選択にかかっている。


 そして、「近衛家を乗っ取れ」という冬華の言葉。この平和な生活は透がその条件を飲んだことで実現した。

 

 本当に近衛家の当主になるためには、透には足りないものが多すぎる。

 近衛家に立ち向かうだけの勇気、覚悟、能力。


 でも、仲間はいる。


 愛乃をちらりと見ると、愛乃はサファイアのような美しい宝石の瞳をきらきらと輝かせていた。

 そして、透を見つめる。そして、赤い唇をそっと動かした。


「Mennaan naimisiin.」


「え?」


「意味は教えてあげない。だって……透くんはもう、わたしからこの言葉を何度も聞いているはずだから」





<あとがき>

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