第96話 恋人、幼馴染、野望

<まえがき>

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<まえがき了>


 結局のところ、問題は山積みだ。

 普通の高校生としても、知香や明日夏との関係がある。二人もいずれ透と愛乃が彼氏彼女になったと知ることになる。


 二人がどう反応するか、透はちょっと怖かった。


 加えて、差し迫った問題として、知香の婚約問題を解決する必要がある。


 たぶん知香は先に家に帰っているはずだ。


 透と愛乃は知香と話し合って、婚約のことを解決しないといけない。

 

 透、愛乃、知香の三人の同棲生活を、婚約相手なりマスコミなりに告げれば、愛乃と透の婚約ごと吹き飛ぶかもしれない。


 それでも、今の透と愛乃には新しい関係があるから。

 帰り道。ずっと愛乃は透に甘えていた。

 

 抱きついてみたり、胸を押し当ててみたり。


 透はといえば、恋人になった愛乃と歩くだけで、胸がどきどきしている。

 普段より愛乃の攻勢に透は平常心を保てなかった。


 それは愛乃を「彼女」として意識しているからだろう。

 そのせいで……透は歩きづらくて困った。


(か、下半身が……)


 ただ好きな人と一緒に歩いているだけで、興奮しているなんて、自分のことながら変態なのかもしれない。

 そんなとき、突然、愛乃がとんでもないことを言い出した。


「透くんの手、握りたいな」


 透の手はズボンのポケットに突っ込まれている。そこに愛乃も手を入れようとする。


「あ、愛乃さん……そ、それは……」


「ダメ?」


「ええと……」


 ポケットの近くに透の敏感な部分が大きくなっている。もしかすると、愛乃の手が当たってしまうかもしれない。


「いいよね?」


 答える前に、愛乃が透のポケットに手を突っ込む。

 案の定、愛乃の手が透の下半身に当たる。


 愛乃が「あっ……」と恥ずかしそうに顔を赤くする。


「と、透くんの変態……」


「せ、生理現象だから……」


「わたしと一緒に歩くだけで興奮しちゃうんだ。ちょっと嬉しいかも」


 言いながら、愛乃は手を抜かず、わざと透のものを触ろうとする。


「愛乃さん、や、やめてよ……」


「やめてあげなーい」


 愛乃がくすくすっと笑いながら、透のものをえいえいっと刺激する。


(さ、さすがにやめてほしい……)


 一方的にやられているのも情けないので反撃しなければいけない。

 幸い、家の近くの人通りの少ない道だ。


 愛乃は透をからかうことに夢中で隙だらけだった。

 その愛乃の隙を狙って、愛乃のスカートの中に透は反対側の手を突っ込んだ。


「えっ? ひゃうっ」


 透の手が愛乃のお尻を撫で回す。


「ちょ、ちょっと……透くん!」


「仕返しだよ。嫌だったら、やめるけど……」


「い、嫌じゃないけど……あっ」


 透の手が愛乃のショーツに触れる。

 愛乃が頬を膨らませて透を見た。


「透くんの……変態!」


「愛乃さんに言われたくないな……」


 互いに意地になって、愛乃は透の下半身を、透は愛乃の下半身を触り合う。

 エッチな気分というよりも、いたずらに近い。


 お互いくすくす笑いだしてしまった。


「あ~! 楽しそうだね、透くん」


 底抜けに明るい声に透と愛乃はびっくりして、慌てて互いから手を放す。

 振り向くと、そこには黒いパンツスーツ姿の超絶美人女性がいた。


 時枝冬華。近衛家の秘書であり、透の後見人だ。


「冬華さん……! どうしたんですか?」


「いや~可愛い弟分がどうしているか様子見しに来たの~。でも、その分だと順調そうだね!」


 冬華はおもしろおかしいといった感じで笑う。透と愛乃はさっきまでの痴態を見られていたと知り、互いに顔を見合わせて、顔を赤くする。

 

 だが、照れている場合ではない。

 透は冬華に話さないといけないことがあった。


「冬華さん、あの……知香の婚約のことなんですが……」


「ああ、あのことね。まあ、君のことだから、知香ちゃんが可哀想だと思って、助けてあげようとしているんでしょう?


「まあ、はい、そうです」


「透くんは優しいものね。あんな子、放っておけばいいのに」


 冬華の言葉が知香に冷たく聞こえたので、透は驚いた。現当主の秘書と、次期当主。二人の関係は良好だと思っていたのだけれど。


「実は知香ちゃんの婚約者は私の大学のときの同級生なの」


 冬華の出身大学、といえば京都の吉田神社近くの国立大学だ。

 それなら話が早い。事情を説明して、冬華から婚約解消の段取りをつけてもらえれば、透や愛乃が負うダメージも少ない。


 婚約関係もそのままに、知香も望み通り、今の学校に通い、透たちと一緒に暮らすことができる。


 冬華はそんな透の内心をお見通しだったらしい。


「話をつけてあげてもいいよ。ただし、一つ条件があるの」


 冬華は透の耳元に、その唇を近づけた。香水の香りだろうか。

 大人の女性の匂いに透はどきりとさせられる。


「透くんは近衛家を乗っ取るつもりはない?」


「え?」


「次期当主は近衛家の血を引く人間から、ふさわしい者が選ばれる。君にも資格があるよ」


 冬華さんは真顔で言う。


 その表情は驚くほど怜悧だった。普段はいい加減で明るい雰囲気の話しやすい「お姉さん」だが、冬華の本質は有能なビジネスマンなのだ。

 

「連城透くん。君が近衛家の当主になるつもりなら、私は君の力になるよ。まずは知香ちゃんを望まない婚約から解放して、あなたの仲間にしてあげる」


「な、なんのために……?」


「私はね、近衛家を変えたいの」


 時枝冬華は、はっきりとそう言った。





<あとがき>

面白い、愛乃が可愛い! と思っていただけましたら、


青い星での応援、お待ちしています……!


改めて……

銀髪ヒロインとの同棲生活がとても可愛いコミックス1巻『クールな女神様と一緒に住んだら、甘やかしすぎてポンコツにしてしまった件について』が明日2024/3/12発売!

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