第93話 透くんってば、家ですればいいのに。
透は知香の腕をつかんだ。えっ、という表情で知香が固まる。
そのまま透は起き上がると、今度は逆に知香を体操マットの上へと押し倒す。知香は抵抗もせず、マットの上に仰向けになった。
知香の大きな胸が揺れる。
上半身下着姿の少女が、透に組み敷かれている。しかも、場所は学校の体育倉庫。
スカートはめくれて、白い太ももが目に眩しい。
ショーツもちらりと見えている。
背徳感が透の心臓をどくんと跳ねさせる。
知香がぎゅっと目をつぶった。
「あっ……」
小さな吐息を知香が漏らす。
きっと知香は透に……子どもができるような行為をされることを期待している。
その期待に透は応えればすべての状況が変わる。
それで知香は救えるかもしれない。透は自分の欲望を目の前の美しい少女にぶつけるだけだ。
(だけど……)
透の手はそこで止まった。
そして、知香の髪をそっと撫でる。
透の雰囲気が変わったことに気づいたのか、知香が目を開け、戸惑ったような表情を浮かべる。
「透……?」
知香が透の名前を呼ぶ。目の前の少女は大事な幼馴染だ。
けれど、透は冷静になってしまった。
「ごめん。やっぱりできないよ」
「ど、どうして!? 私じゃ、魅力ない?」
知香がショックを受けた様子で言う。
透は慌てて首を横に振った。
「そんなことないよ。知香はとても可愛くて……」
その胸を、その白い脚を透は見てしまう。知香も透の視線に気づいたのか、照れていた。
「……やっぱり、愛乃さんじゃないとダメ?」」
「もしここで俺が知香に、エッチなことをすれば、たしかに知香の婚約はなくなるかもしれない。でも、俺と愛乃さんの婚約はどうなる?」
「あっ……」
知香が誰と寝たのかはすぐに近衛家、ひいてはリュティ家にもバレるだろう。
そうなれば、透と愛乃の婚約も破談になる可能性がある。
知香のケースほど確実とは言い切れないが、少なくとも盤石な婚約ではなくなってしまう。
そうなれば、愛乃の望みを叶えられなくなるし、愛乃を守って上げることもできなくなるかもしれない。
だから、愛乃の願いと知香の期待は、両立しえないものだ。
知香はそこに考えが及んでいなかったのか、気づいていて黙っていたのか。
それはわからない。
いずれにせよ、透は知香の頼みに応えられない。
「また、私を助けてくれないの?」
知香に問われ、透は胸が苦しくなる。
こんなに可愛い女の子が、そして、透にとって大事な幼馴染が、血の繋がった従妹が、透に抱かれたいと願っている。
そうすることが知香が救われる唯一の道なのだ。そして、そんな事情を抜きにしても
彼女は透を異性として意識している。
なのに、透は知香を助けられない。
誘拐されたときと同じだ。
知香がぽろぽろと涙をこぼし始め、泣きじゃくってしまう。
あの恥ずかしがり屋の知香がここまで大胆な行動をして、それで拒絶されれば、深く傷つくだろう。
それでも透は知香に手を出すわけにはいかなかった。
愛乃を守ると決めたのだから。
だけど、たとえ愛乃と結婚しても――知香を救えなかったことは一生透の胸に棘として刺さったままになる。
透は追い詰められていた。どうすればいいかわからない。
救いの女神が現れたのは、そんなときだった。
体育倉庫の扉が開く。
外の日光とともに、金髪碧眼の美少女が現れた。
「透くん、知香さん……こんなところでエッチするんじゃなくて家ですればいいのに」
くすくす笑いながら言ったのは、愛乃だった。
<あとがき>
更新間隔空いてすみません……! 第二部完結までは書き上がっています! あと書籍2巻の発売が決定しています!!!
星での応援と新作もお読みいただければ……!
タイトル:破滅エンド確定の悪役貴族に転生したので、天才皇女様に最強の闇魔法を教えてみた結果
URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330669044999319
こちらはカクヨムコン参戦中です!!!
タイトル:清楚完璧な美人のエリート警察官僚上司が、家では俺を大好きな甘デレ幼馴染だった
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