第90話 知香@体育倉庫

 知香に連れられて、透はまるで見世物になったかのように学校の廊下を歩いていた。目的地もよくわかっていない。


 なんといっても、知香は学校一の有名人だ。狙っている男子も多い超絶美少女なのに、これまで彼氏がいたという話もない。


 だから、男子の透と一緒に歩くとものすごく目立つ

 周囲の視線をおそれて、透はきょろきょろとあたりを見回した。


 一応名門進学校なので、自習室で勉強する生徒も多い。彼らがちらっと廊下の窓を見て、透と知香を見て驚いた様子になっていた。


 それより問題なのは廊下でおしゃべりをしている生徒たちだ。きゃっきゃっと明るく話している女子の集団や、仲睦まじく彼氏といちゃついているギャル。


 彼女たちは知香、ついでに透を見ると、珍獣でも見るかのような目で見てくる。そして、ひそひそと噂話をしている。


「知香は気にならない?」


「ああ。周りの視線のこと? 気にならないわ。私はいつも注目されているし」


「さすが知香……」


「この先はもっと多くの人の前に立たないといけないわけだし」

 

 知香はつぶやく。

 それはそうだ。知香は今後、近衛家の後継者になる。

 巨大財閥の経営者になるには従業員の前に立つということだし、対外的にも代表としてマスコミや投資家の前に立たないといけない。

 

 それと比べれば、たかだが高校生の噂になるぐらい気にする必要はないだろう。

 

「まあ、それにね。透となら、噂になっても嬉しいし」


 知香は顔を赤くして、小声で言う。透が「えっ」と知香を見ると、知香は「忘れなさい、バカッ」と早口に言う。

 自分で言ったくせに、とは思うのだけど、そういうツンデレな反応も可愛く思える。


 もし愛乃と出会うことがなければ、もっと早く関係を修復していれば。今でも透の想い人は知香だったかもしれない。


 渡り廊下を歩き、さらに階段を降りて、校舎の影になる薄暗いあたりにたどり着く。


「ついたわ」


「ここって……」


 体育倉庫。この時間は誰もいないはずだ。

 不良の呼び出しに使われそうな、典型的な場所だ。まあ、この学校は一応名門校なので、露骨な不良はいないけれど。


「も、もしかして、俺……や、ヤキを入れられる……?」


「透……私をなんだと思っているのかしら?」


 知香が笑顔で睨んできたので、透は軽口を叩くのをやめた。

 知香は怒らせると怖いのだ。

 

「二人きりで話すにはちょうどいい場所だったから。他には誰もいないし」


 知香がそう言いながら、体育倉庫の扉を開ける。

 当然、誰もいない。この後も、部活の生徒が片付けにやってくる程度だ。


 とはいえ、大勢の生徒に透と知香が体育倉庫に入る姿を見られている。

 体育マットを見て、知香が「そうそう、これこれ」とつぶやいた。


 そういえば、体育倉庫といえば不良がヤキを入れる場所の他にもう一つ、イメージすることがある。

 エッチな漫画で定番の場所なのだ。体育マットの上で、美少女から誘惑される、というのもよくあるシチュエーション。


 体育マットを見て、想像してしまった。

 邪念を振り払って、透は知香に尋ねる。


「それにしても、話は家じゃダメだったの?」


「家だと誰に聞かれているか、わからないから」


「それは……もしかして近衛家に盗聴されているってこと?」

 

 透は尋ねると、知香はうなずいた。


「可能性はあるわ。あの家は冬華さんが用意した場所でしょう? 監視の道具は仕掛けているかも」


「近衛家もさすがにそこまではしないんじゃないかな……」


 いくら手段を選ばない冷徹非道な近衛家でも、自分たちで高校生の男女に同居生活をさせておいて、盗聴器や監視カメラの設置まではしない気がする。

 犯罪行為スレスレだ。


 けれど、知香は首を横に振った。


「そうでないと説明できないことがあったの」


「それは……」


「私が透と愛乃さんとの……そ、そのハーレム生活を提案したことが冬華さんにバレていたの!」


「ま、まさか……あの冬華さんがそんなこと……」


「しないと思う?」


「……まあ、冬華さんだったら何をやっても驚かないかもしれない」


 透にとって、冬華は恩人だ。近衛家の秘書という立場でありながら、冷遇されていた透に手を差し伸べてくれた。

 透が不自由なく生きてこれたのは、彼女が後見人だったのが大きい。


 けれど、同時に冬華は近衛家当主に忠実な人間でもある。ああ見えて、仕事熱心なのだ。

 加えて、どんな非常識なことでもやってのける胆力がある。


 知香は肩をすくめた。


「つまり、冬華さんは……近衛家は、私たちを思い通りにしないと気がすまないってこと」


「まあ、俺と愛乃さんを婚約者にさせた時点である程度はわかっていたことだけどね」


「そうでしょうね。それはこの先も同じよ。事情が変わったら、明日いきなり愛乃さんと別れろって、透に言い出しかねない」


 それは透も危惧していたことだった。

 もし政略結婚の価値がなくなれば、透と愛乃は簡単に切り捨てられるだろう。







<あとがき>


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