第84話 メイド知香

<まえがき>

ごめんなさい! サウナのシーンのあと愛乃と透がいろいろちょっぴりエッチするシーンを書いたのですが、カクヨムだと明らかにBANされるので掲載は見送りました。書籍の2巻が発売されることがあれば(仮に発売されればの話です)たぶん収録しますので、ぜひ買ってくださいね!

<まえがき了>



 愛乃にいろいろされて、逆にいろいろいたずらして……「すっきり」してしまった透は、結局、それ以上のことは何もせず、愛乃と一緒にサウナを楽しんだ。

 サウナ、水風呂、外気浴のセットを三回繰り返し、一緒にお風呂に入ってイチャイチャして、愛乃も満足したようだった。


 そのまま透たちはしばらく繁華街でウィンドウショッピングをした後、家へと帰った。

 けっこう愛乃も疲れてしまったようだし、そもそも同居しているのだから家でもいくらでもイチャイチャできる。


「知香さんも近衛家のお屋敷に行ってるんでしょ? それなら色々できるよね!」


 色々、の意味を想像して透はちょっと怖くなったが、透もはしゃぎすぎて疲れていたので、愛乃の提案通り家へと帰ることにしたのだ。


 ところが……。

 玄関の扉を開けると、ヘッドドレスに白いエプロン、ワンピース姿の知香がいた。

 

(これはいわゆる……メイド服では?)


 透と愛乃は顔を見合わせた。


「お、おかえりなさいませ、と、透様」


 知香が恥ずかしそうにもじもじしながら言う。


「と、知香さん? ど、どうしたの? 大丈夫?」


 愛乃が心配そうに尋ねると、知香は頬を膨らませる。


「ひ、人を頭がおかしくなったみたいに言わないで!」


「だって、なんでメイド服……?」


「こ、こうすれば透が喜ぶかなって思ったから……」


 まさかのメイド服での登場は、透のためだったらしい。

 それにしてもどういう心境なのだろう。


「近衛家の用事はもういいの? 早かったね」


「ああ、あれね。もう終わったことだから」


 知香が早口で言う。そんな知香の様子を見て、透は首をかしげる。


「もしかして知香、元気ない?」


「なんでそう思うの?」


「いや、勘だけど……雰囲気とか口調とかでわかるから」


 透と知香は生まれた頃から一緒にいて、中学生の最初の頃までべったりな幼馴染なわけで。

 しかも従兄妹で婚約者でもある。


 ちょっと機嫌が悪い時とか、疲れているのとか、すぐにわかってしまう。

 透がそう言うと、知香がちょっと嬉しそうに「ふうん」とつぶやく。


「お父様や冬華さんにいろいろ言われちゃって」


「そりゃまあ、俺と一緒の家に住んでいたら言われるだろうね」


 知香が従兄妹とはいえ透と一緒の家に住んでいるというのはまずいだろう。

 あくまで二人は元婚約者で、今は年頃の異性。不祥事になりかねない。


 知香には新しい婚約の話が出ているというので、なおさらだ。


 近衛家秘書・時枝冬華は、透の後見人であるのと同時に、次期当主の知香のサポート役でもある。

 知香の動向にも気を使っているだろうし、透との同居を許すとは思えない。


 透と愛乃の婚約を近衛家は望んでいるという事情もある。

 

「というか、よくこの家に戻ってこれたね」


「私もいつまでもおとなしいお嬢様なんて嫌なの。このぐらいのわがまま聞いてもらってもいいでしょ?」


 男と外泊はかなりのわがままだと思うのだが、言わないでおく。知香が優等生的に振る舞っていたことも知っているし、近衛家次期当主としてかなり努力しているのも理解している。


 そんな知香は窮屈な思いをしてきただろうし、自由がほしいというのもわかるのだ。

 知香はちらっと愛乃を見て、顔を赤くする。


「それに……せっかく友達もできたのに」


 愛乃がびっくりした様子で、「わ、わたし!?」と自分を指差す。

 知香が「べ、べつにあなたは私を友達だとは思ってないかもしれないけど……」と小声でつぶやく。


 けれど、愛乃はぶんぶんと首を横に振った。

 そして、とても嬉しそうに笑う。


「もちろん、友達だよ! 知香さんがそう言ってくれて嬉しい!」


 愛乃がいきなり知香に抱きつく。知香がわたわたと慌てる。


「ちょ、ちょっと……愛乃さん!?」


「あ、ごめんなさい。嫌だった?」


 しょんぼりと愛乃が言うと、知香は「そ、そんなことない!」と強い口調で言って、そして愛乃を抱き返す。

 愛乃がくすっと笑って、「ありがと」とつぶやく。


 急に現れた百合空間に透は圧倒される。

 いつのまにか本当に仲良くなってしまっている。


 知香の顔は真っ赤だった。


「で、でも、私と愛乃さんは恋敵なんだから!」


「知香さんってツンデレだよね」


「ツンデレ言うな!」


 知香のその必死な反応こそ、ツンデレであることを証明していると思う。

 愛乃はくすくすっと笑う。


「……うん、わかってるよ。恋敵だけど友達。だから、仲良くしないな」


「そ、それは私も同じ」


「透くんがいるからだけじゃなくて、わたしとも一緒にいるからこの家に残ってくれるんだ?」


「……この家での生活は楽しいから。お屋敷でお嬢様として振る舞うよりも、学校で優等生らしく生きているのよりも、ずっとずっと私らしくいられる気がする」

 

 知香はとても小さな声でそう告げた。


 知香にとっては、ここでの生活は最初は透と愛乃を監視するつもりで、本音では透を取り戻すつもりだったのだと思う。

 けれど、いつのまにか透・愛乃と一緒にいる時間そのものが楽しくなってきたらしい。


 愛乃は「わたしも三人での生活も楽しいと思っていたの!」と言う。

 そして、透を振り向いた。


「透くんも可愛い女の子二人と一緒に暮らせたら楽しいよね?」


「そこ、ここで楽しいと答えると俺がクズになっちゃう気が……?」


「透くんは気にしなくて良いんだよ。だって、これはわたしたちの望みだもの。ね?」


 愛乃がウィンクすると、知香もこくんとうなずいた。

 いずれにせよ愛乃の提案する「デーティング」は続いている。透の心は愛乃にほぼ決まっているけれど、それでも愛乃や知香はデーティングをやめるとは言わないだろう。


 透は考えた。


「楽しいのは事実だけどね。近衛家がなんと言うか……」


「そこは私がなんとかするから大丈夫」


 知香がえへんと大きな胸に手を当てて、得意げに言う。

 本当に知香は近衛家を説得できるのだろうか……? 明日にでも冬華が連れ戻しに来てもおかしくない。


 けれど、今この瞬間は愛乃も知香も楽しそうだ。



†あとがき†

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