第79話 エッチなことをしたい愛乃vs理性を維持したい透

 愛乃の言う通り、近衛家は今のところ透たちにとって良いことしかしていない。


 もちろん、政略結婚を押し付けられたのは困ったのだけれど、それが透と愛乃の望みになれば話は別だ。

 わざわざ豪華な家まで用意してくれて、自由に使えるお金も提供してくれている。


 でも、この先もどうかはわからない。

 突然、事情が変わったと言って透と愛乃を引き離すようなことも当然考えられる。


 かつて透と知香の婚約を破棄させたのも近衛家当主だ。

 それでも、たしかに透と愛乃の婚約のきっかけを作ったのは近衛家だ。


 透と愛乃は栄の街中を歩き始めた。目指すはすぐそばにある目的のサウナだ。


「じゃあ、近衛家に感謝しながら、サウナに行こうか」


「うん、あとできっと知香さん、悔しがるね」


 ふふっと愛乃がいたずらっぽく笑う。

 たしかに二人でサウナに入ったなんて聞いたら、知香がかんかんに怒りそうだ。


「エッチなことしなかったでしょうね!?」


 なんて言う知香の姿が目に浮かぶ。


(いや、実際、水着姿で二人きりでいたら、お、俺の理性が持つのかな……?)


 風呂場で愛乃を襲わずに済んだのは知香がいたからだ。

 ところが、今回は知香はいない。


 愛乃と二人きりで密室にいたら、どうなることか……。

 しかも、透が何をしても、愛乃はきっと乗り気で身を任せてしまうだろう。


 そうなったら……本当に子供ができるようなことをしてしまうかもしれない。


 透の内心に気づいたのか、愛乃がぎゅっと透と腕を組む。


「あ、愛乃さん……?」


「いまさら逃げたりしたらダメなんだからね?」


 愛乃はなんとしても透と一緒にサウナに入るつもりらしい。


「愛乃さん。先に言っておくけど、そ、その……エッチなことは禁止だからね」


「うんうん! エッチなことは禁止ね!」


 言いながら愛乃はその大きな胸を透の腕にぐいぐいと押し付ける。その柔らかい感触を意識させられて、透はエッチな気分になってしまう。


「本当にわかってる……?」


「もちろんだよ。貸し切りなんだからサウナを楽しまないとね!」


 言葉とは裏腹に愛乃はぎゅっと腕を組んだままだった。

 いかにもカップルという雰囲気で透と愛乃は並んで歩いていく。見上げると、栄のテレビ塔が青い空を背景にそびえ立っている。

 ここは人通りも多いエリアだ。

 

 知香がいて両手に花状態のときよりはマシとはいえ、かなり目立つ。


 でも、愛乃は嬉しそうだった。


「デートしているって感じがして幸せ……」


「愛乃さんが喜んでくれてるなら、良かったよ」


「ね。透くんがエッチな気分になったら、してくれていいんだからね?」


「エッチなことはしません!」


「えー」


 ……愛乃がちゃんとわかっているか不安だけれど。

 純粋にサウナに行くのが楽しみでもある。


 そう。これは愛乃とのデートだから、透は楽しいのだ。

 やがて建物についた。サウナファクトリー、と看板が掲げてある。


 新しい施設だけあって、豪華できれいな見た目だ。

 受付からして真新しい。

 

 土足では入れないので、靴を脱いで靴箱にしまうことになる。

 透が靴を脱いだ後、愛乃が後ろを向いて靴を脱ごうとする。


 そのときにきれいな足を上げて、スカートからショーツがちらっと見えそうになる。

 つい目で追ってしまった。


 ギリギリ見えないけれど、太ももが見えて透の心を悩ませる。

 しかも、靴を脱ぎ終わった愛乃がこちらを振り向いた。

 

「と、お、る、くん?」


「な、何でしょう?」


「今、わたしのパンツを見ようとしてたでしょ?」


「そんなことしていないよ」


「透くんの嘘つき♪ 透くんの方がエッチなことを考えてるよね? でも、他の女の子のパンツを見たらダメだよ?」


「愛乃さんが可愛いから、見ちゃったんだよ」


「ふうん、わたしだから、なんだ? わたしは……透くんにならいくらでも見られてもいいのに」


「愛乃さん……挑発されると……」


「その気になっちゃう?」


「そうだね。じゃあ、見せてくれる?」


 売り言葉に買い言葉。透はあえてそう言った。

 愛乃はその反応を予想していなかったのか、さっと顔を赤らめる。


「え、エッチなことはしないんじゃなかったの?」


「愛乃さんがそんなにエッチなことをされたいなら、仕方ないかなって」


「か、帰ったら、下着も見せて上げるし、たくさんエッチなこともさせてあげる……。約束だからね?」


 愛乃は目を泳がせて、でもちょっと嬉しそうに言った。

 

(しまった。からかうつもりが話が変な流れになった……)


 家に帰ったとき、愛乃に迫られたら今度こそ抵抗できないかもしれない。

 いや、それより、今これから入るサウナだって男女二人きりの密室なわけで。


 乗り切れるかどうか透はかなり不安だった。

 とりあえず受付の若い女性に下足箱の鍵を渡し、代わりに個室サウナの鍵とタオル、レンタル水着を受け取る。


「カップル様2名と!」


 女性はふふっと笑うと、「ごゆっくり」とにやにやと笑った。

 もともとこの個室サウナはデート目的で来るカップルが多いらしい。


 透と愛乃は案内された部屋へと入った。

 愛乃は部屋の中を見て、ぱっと顔を輝かせる。


「すごーい! ホテルみたい!」


 そこは豪華なホテルのような作りになっていた。考えてみたら当然だけど、サウナには休憩や着替えのスペースが必要だ。


 だから浴室スペースの手前側にベッドの置いてある空間があるらしい。

 問題は――。


「えっと、これってここで着替えるんだよね?」


「そうだね。わたしと透くんが……ここで一緒に着替えるみたい」


 愛乃が渡されたビキニの水着をちらっと見る。

 カップルで来る男女に別々の着替えのスペースは不要ということだろう。


 でも、透と愛乃はそれでは困る。

 

「俺が浴室の中で着替えてくるよ」


「ダメ」


 愛乃が透の腕をつかむ。どきりとして愛乃を振り向くと、愛乃は目を伏せて顔を真っ赤にしていた。


「わたしたち婚約者だもの。本当にカップルだもん。透くんと一緒にここで着替えるの」


 愛乃は駄々をこねるようにそう言った。

 こうして、「エッチなことはしない」という約束は最初から怪しくなりはじめた。




<あとがき>

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