第78話 サウナへ行こう!

「午後はどうしよっか?」」


 愛乃に尋ねられ、透は考える。

 知香がいれば、映画に行ったところだったのだけれど、予定が変わった。その映画は知香が見たいと言っていたものだし、透と愛乃だけで見に行くのも気が引ける。


 また三人で来週にでも行くのが良さそうだ。そんな発想になるぐらい、三人での生活にすっかり透は馴染んでしまっていた。


 透がそう言うと、愛乃は微笑んだ。


「透くんは優しいね。知香さんのことをいつも気遣ってる」


「そんなことないよ。疎遠だった時期も長いし……」


 かつて知香に嫌われているとばかり思って、透は何のフォローも知香にしなかった。

 その罪悪感が透にはある。


 でも、今考えるべきなのは愛乃のことだ。


「知香のことは大事だよ。幼馴染だから」


「そっか……」


「だけど、これからは俺が気遣う相手は、婚約者の愛乃さんだから」


 透が言うと、愛乃はびっくりしたように目を瞬せ、ふふっと笑った。


「ありがとう。透くんがわたしに優しくしてくれるなら、わたしも透くんに優しくしないとね」


「愛乃さんはもう十分優しいけどね」


「もっともっと優しくしてあげる」


 愛乃は身を乗り出して言う。

 それは嬉しいけれど、これ以上、愛乃から優しくされるところをあまり想像できない。


「わたしが透くんに甘えてばかりだから、今度はわたしが透くんを甘やかしてあげるの。料理も頑張るし、膝枕とかだってしてあげる」


 それは魅力的だと思う。婚約者の手料理なんて、男ならみんな食べたいだろう。

 ただ、朝食のときに聞いたように、愛乃は料理ができないみたいだけれど……。


「それは透くんに教えてもらうの! ……あれ、結局、透くんに甘えちゃってるかも……」


 透と愛乃は顔を見合わせ、くすくすっと笑った。

 こんな掛け合いも楽しい時間で、愛乃と知り合えて婚約者になれてよかったと思う。


「透くんにもう一つ甘えちゃおうかな。実は行きたい場所があるの」


「愛乃さんが行きたい場所ならどこへでも行くよ」


「え? アンコールワットや北極やエベレストのてっぺんでも?」


「……愛乃さんが行きたいなら」

 

「アンコールワットはちょっと行ってみたいかも……」


 アンコールワットはカンボジアにある巨大なお寺で、世界遺産。愛乃がそういうものに興味があるのはちょっと意外だったけれど。


「いつか俺も愛乃さんも大人になったら、海外旅行とか行けるといいね」


「うん! わたしの生まれたフィンランドも案内したいな」


「そうだね。俺も愛乃さんのことをもっと知りたいし」


 透の言葉に愛乃は頬を赤くして、「もうっ。透くんってば、照れちゃうよ……」と小さくつぶやく。


(フィンランド、か、どんなところなんだろう……?)


 以前に図書室で見かけた『フィンランドを知るため本』というソフトカバーの本は、実は借りて家にある。


 けっこう参考になりそうだったけど、まだ読めていない。それに、読めばフィンランドの経済とかに詳しくなれるかもしれないけれど、透が知りたいのはそういうことではない(興味深くはあるけれど)。


 愛乃のことを本当に知るためには、実際にフィンランドに行ってみる必要がありそうだ。

 そんなことを言うと、愛乃がえへんと胸を張る。


「なら、わたしが教えてあげる」


「あ、愛乃さんが!?」


「そうだよ? わたしが行きたいところとも関係があるの!」


 愛乃はスマホをタップすると、その画面を透に見せた。

 そこには「サウナファクトリー栄、OPEN!」と書いてある。


「さ、サウナ……? あっ、そっか。サウナってフィンランド発祥なんだっけ……」


 読んだ本にも書いてあった気がする。北欧は家具とかも有名だけれど、日本でもっともフィンランドで馴染みがある文化といえば、サウナになるのだろう。


「ね? 二人で行ってみない?」


「もちろん良いけど、サウナだと男女別にならない?」


「あ、わたしと一緒にいたいと思ってくれているんだ?」


「せっかくなら愛乃さんとの時間を楽しみたいから」


 こんな恥ずかしいセリフも愛乃相手なら言えてしまう。そのぐらい、透にとっての愛乃の存在は大きくなっていた。

 愛乃は嬉しそうに笑う。


「わたしも透くんと一緒にいたいよ。だから、このサウナなの」


「へ?」


「水着を着ていれば男女一緒に入れるの! しかも貸し切りサウナなんだって」


 愛乃がきらきらと青いサファイアのような目を輝かせている。

 

(さ、サウナ……そんなに好きなのかな?)


 気になったけれど、一緒に入れるなら悪くない。フィンランドゆかりなわけだし、愛乃の希望でもあるし。

 透に反対する理由はなかった。


 透が賛成すると、愛乃はこくんとうなずいた。


「ちょっと料金はお高いけど、近衛家からもらっているお金で払えるものね」

 

「まあ、そうだね。近衛家にとっては雀の涙だし、それに、近衛家にはいつも振り回されているし、気にしなくていいよ」


「うんうん。でも、わたしは近衛さんの家にはちょっとだけ感謝しているの」


「え? なんで?」


「だって、わたしと透くんを婚約者にしてくれたんだもん」




<あとがき>

愛乃と水着でサウナデート!?


☆での応援、お待ちしています!


CV高橋李依様が愛乃を演じるPVもよろしくです!

https://twitter.com/karuihiroF/status/1717163030696648874

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