第67話 カップル割引はわたし/私のもの!
「カラオケ!?」
知香が素っ頓狂な声を上げる。
というのも、元々の計画では映画でも見に行こうか、と透たちは話していたからだ。
愛乃は微笑む。
「気が変わったの。女子高生と言えばカラオケ。そうでしょう?」
「そ、そう……?」
知香が首をかしげている。
愛乃が上目遣いに知香を見る。
「ダメかな……?」
「ダメってことはないけど」
知香は慌てて首を横に振る。基本的に優しい性格の知香は愛乃の提案を否定するのも気が引けるらしい。
透も反対というわけではない。
ただ……。
「俺も構わないけど、実はカラオケって行ったことがなくて……」
人前で歌うのは恥ずかしいと感じてしまう方だ。それに、そもそも友達もあまりいない。
知香が誘拐された事件以降、学校でも無気力に過ごしてきたせいもある。
知香が「そうなの?」とちょっと驚いた顔をする。
「透ってやっぱり私がいないとダメね……」
「一緒にいた頃はむしろ俺が知香をサポートする側だと思っていたけど」
「そ、それはそうだけど……。えっと、名前を呼んでくれるんだ?」
(しまった……)
昔の癖で、つい知香のことを名前で呼んでしまう。今の知香は透のことを名前で呼んでいるし、元の幼馴染としての関係が修復しつつあるのかもしれない。
それは喜ばしいことだけれど、愛乃にとってはそうではないだろう。
案の定、愛乃はむうっと頬を膨らませていた。
「透くんはダメなんてことないもん。わたしをいつも助けてくれるし、守ってくれるし。ね?」
「え、えっと……」
愛乃が露骨に透にアピールするように、透に身を寄せる。ふわりと甘い香りがする。お出かけだから、特別な香水でも使っているのか、いつもと違った大人な雰囲気がする。
ドキドキしている透に、知香が「ちょ、ちょっと!」と抗議する。
透に愛乃はふふっと笑いかけた。
「戦いはもう始まっているんだよ?」
「た、戦いってそんな……」
「透くんをめぐる女の戦い、だね。わたしは本気だよ。近衛さんを倒して、透の婚約者、で、恋人で……いちばん大事な人になるんだから」
そのためなら、どんなことでもする。愛乃はそう言いたそうだった。それは知香を挑発するためでもあるのだろう。
愛乃の目的のためには、知香にも本気になってもらわないといけないからだ。
でも、知香は愛乃に圧倒されてしまっていて、何もリアクションが取れていなかった。
愛乃はくすりと笑う。
「それに、わたしも透くんと同じでカラオケって行ったことないの」
「え? そうなの?」
「うん。わたしもあまり友達いなかったし」
フィンランド系の美少女である愛乃は、クラスではちょっと浮いた存在だった。
少し人見知りだったし。もっとも、一度仲良くなった相手には、ぐいぐい来るのは透自身がよく知っている。
そういう意味では、知香も愛乃にとっては気を許せる存在なのかも知れない。そうでなければ、こんなに親しげに話したりはしないだろう。
「だから、近衛さんがいろいろと教えてね」
そう言うと、足取り軽く愛乃はカラオケ店に入ってしまう。
透と知香は慌てて愛乃の後を追った。
ビッグ・カラオケという赤いチェーン店だ。
女子大生のアルバイト風の店員に話しかけられて、愛乃が「え、えっと……」とおろおろとしている。
(やっぱり人見知りだ……)
知香が割って入って、よどみなく説明する。さすが近衛家の令嬢で生徒会役員の優等生。
卒がない。
……と思っていたら、知香が赤面する。
そして、透を振り向く。愛乃も困った様子だった。
「二人とも、どうしたの?」
知香が肩をすくめる。
「えっとね、カップル割引があるんだって」
「へえ。三人でも適用されるんだ。なら、男と女二人だから、一組はカップル料金で、あと一人は通常料金……になるのかな」
このデートのお金も、近衛家から与えられた有り余るお金が使えるので、ちょっとした割引が適用されても大差はない。
でも、問題はそこではないようだ。
愛乃が言う。
「カップルは透くんとわたしだよね?」
「わ、私と透がカップルなんだから!」
愛乃と知香がばちばちと視線で火花を散らす。
(こ、ことあるごとに対立するのは困っちゃうな……)
それが透のためだと思えば、ちょっと嬉しいことではあるのだけれど。
アルバイトのお姉さんはふふっと笑った。
「あらあら、羨ましい。でも、カラオケ店でエッチなことをしたりしないでくださいね?」
「三人でしたりしません!」
知香が振り向いて店員に抗議する。店員はクスクス笑って「二人きりならするのかしら?」と問いかける。
知香は顔を真っ赤にした。
「そ、それは……」
まごつく知香に、愛乃は横から口を挟む。
「わたしは二人きりでもしないよ?」
「えっ?」
愛乃の答えが意外だったので透は愛乃を見つめてしまう。愛乃はふうんといたずらっぽく笑う。
「透くんも期待していたの?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……」
「わたしは透くんにエッチなことをされるのを期待しているよ」
「なら、どうしてさっきは『しない』って言ったの?」
「だって、わたしは透くんと同棲しているんだもの。エッチなことは家で透くんにいっぱいしてもらうんだから」
愛乃は冗談なのか、本気なのかわからない調子で言った。
いずれにせよ、透をからかう愛乃はとても楽しそうだった。
<あとがき>
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