第63話 豪華な朝ごはん!


 知香の作った朝食は、とても豪華だった。

 白米、焼き魚、豚汁、だし巻き、さらに野菜の煮物などもある。


 純和風の献立だ。

 エプロン姿の知香がえへんと胸を張る。エプロンの上からでもわかる豊かな胸が小さく揺れた。


「どう? 透?」


「す、すごいね……。近衛さんってこんなに料理上手かったっけ?」

 

「あれから腕を上げたの。学校の成績がいいだけじゃなくて、ちゃんと花嫁修業もしているってわけ」


 知香はとても得意げだった。一方、愛乃は目をきらきらと輝かせている。


「とっても美味しそうだね!」


「そうでしょう?」


「わたしは全然料理できないから、羨ましいなあ」


「慣れればこのぐらいは誰でもできるから。教えてあげよっか?」


「いいの?」


 意外にも愛乃と知香は仲良さそうに話している。さっきまで寝室で透をめぐってばちばちと火花を散らしていたのに。

 

 女子特有のこういう仲の良さが、透にはよくわからなかった。


 もともとクラスメイトの明日夏を除けば、女子との交流なんてほとんどなかった。なので、いきなり二人の美少女と同居するというこの状況は、透のキャパを超えている。


 食卓には、透の左隣に愛乃が、正面に知香が腰掛ける。

 愛乃と知香は透の顔を幸せそうに見つめ、そして、ふふっと笑う。


「いただきます」


 三人揃ってそう言うと、透は朝食に箸をつけた。

 豪勢な見た目どおり、味もかなり美味しかった。味の染み込んだふわふわのだし巻きを、透はぱくぱくと食べてしまう。


 一息ついて見上げると、知香と目が合う。知香は食べている透を嬉しそうに見つめていた。


「美味しそうに食べてて、ちょっと面白いかも」


「実際、めちゃくちゃ美味しいよ。慣れれば誰でも出来るというレベルではないと思うな」


「そ、そう? ありがと……」


「お礼を言うのはこちらの方だけどね」


「別に……大したことじゃないわ。でも……」


「でも?」


「透に美味しいって言ってもらえるのは嬉しいな……」


 知香が消え入るような小さな声で言い、顔を赤くしていた。透もその反応にうろたえてしまう

 愛乃はそんな透と知香を見ながら、複雑そうな表情を浮かべていた。

 そんな愛乃の視線に、知香は気まずそうに目をそらす。


 三人の関係はとても微妙なものがあった。愛乃は元婚約者の知香に遠慮していて、知香も今の婚約者の愛乃に配慮している面があると思う。


 透を取り合って、時には感情的になるけれど、いつでもそうというわけではない。


 愛乃は優しく微笑んだ。


「わたしはね、透くんと二人きりの生活が良かったけど……でも、近衛さんと一緒の生活も楽しみにしてるんだ」


「え?」


 知香が意外そうに目を見開く。

 透も驚いた。どういうことだろう?


 くすりと愛乃は笑う。


「だって、近衛さんのおかげで、こんな美味しい朝ごはんも食べられるし、料理も教えてくれるっていうし」


「喜んでくれるのは、その、悪い気はしないけど……」


「それに、近衛さんみたいな可愛い子と仲良く出来るのは、わたしも嬉しいもの」


「ふ、ふうん……」


 知香が恥ずかしそうに目をそらした。知香はけっこう押しに弱いタイプで、ストレートに好意を伝えられると弱いかもしれない。


「そ、そんなお世辞を言っても、透とリュティさんがふしだらなことをするのは許さないんだからね?」


「お世辞なんかじゃないんだけどな」


「でも、リュティさんにとって、私は……邪魔者でしょう?」


「ううん」


 愛乃はきっぱりと首を横に振った。そして、小首をかしげて、にっこりと笑みを浮かべる。


「だって、もう透くんはわたしのものだもの。近衛さんに取られちゃう心配なんてないよ」


 それははっきりとした宣戦布告だった。

 知香はみるみる顔を赤くする。


「い、言ったわね! 後悔しても知らないんだから!」

 

「わたしは後悔しないよ。透くんがそばにいてくれるんだもの」


 愛乃と知香の視線が交差する。


「これからが楽しみだね、近衛さん?」


「ええ。私も楽しみね……!」

 

 二人はもう遠慮することなく、互いへの対抗心をむき出しにしていた。透ははらはらとする。

 まだまだ共同生活は続く予定なのに。


 この共同生活に、新たな危機が訪れるなんて透はまだ知らなかった。


 近衛家の秘書・時枝冬華はこの状況を許してはいなかったのだ。







<あとがき>

冬華の介入で一波乱が起きる……!?

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