第64話 三人でデート?

「それで、今日はお休みだけど、透くんも近衛さんもどうする予定?」


 知香の作った美味しい朝食を食べ終わった後、愛乃が首をかしげて尋ねる。

 透と知香は顔を見合わせた。


 たしかに今日は土曜日。

 丸一日が休日だ。


 食卓の左隣に座る愛乃が、透に甘えるようにしなだれかかる。金色の美しく長い髪が透の身体にかかり、どきどきさせた。

  

「透くん、一緒にお出かけする?」


「え、えっと、それは……」


「わたしとデート、したくない?」


「したいけど……」


 透は知香をちらっと見た。知香は頬を膨らませている。


「と、透から離れてよ……!」


「やだ。透くんはわたしのものだもの」


「透はあなたのものじゃない!」


「悔しかったら、近衛さんもこっちに来たら?」


 知香は愛乃の挑発に乗ってしまい、テーブルの反対側の席から立ち上がり、こちらに来た。

 そして、知香は透と愛乃を見下ろし……。


 何もしなかった。


 手を伸ばそうとしたまま、固まってしまっている。

 見ると、知香の顔は真っ赤だった。


 愛乃に対抗して、透にくっつこうと思ったのだろうけれど、恥ずかしくてできないようだ。

 愛乃がくすりと笑い、ますます透に密着する。そして、さらに大胆な行動に愛乃は出た。その白くて細い脚を動かし、透の左足の付け根にまたがったのだ。


 そのまま、愛乃は透の首に腕を絡めた。

 あまりの大胆さに、透はフリーズし、知香もぷしゅーと湯気を立てそうな表情で口をぱくぱくさせている。


 肝心の愛乃も、知香に対抗するためとはいえ、少しやりすぎたと思ったみたいだった。

 すぐ間近にある愛乃の頬も真っ赤に染まっている。


「これ……ちょっと恥ずかしいかも……ひゃうっ。と、透くん……動かないで!」


「ご、ごめん。でも……」


 愛乃の甘い香りと腕の温かさ、そして太ももの柔らかさに透の理性は崩壊しつつあった。

 知香さえいなければ、完全に陥落していただろう。


「あっ……と、透くんのが……」


 愛乃は恥ずかしそうにつぶやき、そして、愛乃が透にまたがっているあたりを見つめる。


(ま、まずい……)


 でも、生理現象なのでどうしようもない。


 そして、愛乃が急にびくんと身体を震わせた。


「ダメっ、透くん……」


 透はそのまま愛乃を抱きしめたくなった。

 でも、知香がそんなことを許すわけがない。


「りゅ、てぃ、さん?」


 知香がめらめらと瞳を燃やし、愛乃を睨んでいる。愛乃も知香がいることに気づいたのか、慌てた様子で透から離れ、なんとか元の椅子に戻った。


「ご、ごめんなさい……ちょっと調子に乗ったかも……」


 愛乃が「あはは」と笑いながら知香をちらりと見る。知香はため息をついた。

 

「この調子じゃ、私がいないと二人は本当になりするかわからないじゃない……」


「いや、俺が止めるから大丈夫……」


 透は言ってみたが、あまり説得力はない。少し積極的に迫られたら、愛乃に押し切られてしまいそうだ。


 知香は肩をすくめた。


「二人が出かけるなら、私もついていかないとね」


「え!?」


「この家でいかがわしいことをするならともかく、外でまでしたら、近衛家の恥さらしだもの」


 愛乃が真面目な顔で言う知香を見て、首をかしげる。


「いかがわしいことをしたいと思っているのは、近衛さんもなんじゃない?」


「わ、私はそんなこと思っていないから!」


「でも、三人でお出かけも楽しみかも」


 愛乃が弾んだ声で言う。知香はちょっと照れたように目を伏せた。

 知香もまんざらではないのかもしれない。


 もちろん、透としても美少女二人と出かけることに異存はなかった。

 

(ないんだけど……)


 愛乃と知香が、同時にこちらを振り向き、そしてくすくすと笑う。


「透くん、楽しみだね?」「透、覚悟なさい!」


 二人の少女は目をきらきら輝かせながら、そんなことを言った。

 









【大事なお知らせ】

更新間隔が空いてすみません! 本作、書籍化します!

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面白い、書籍化おめでとう! と思っていただけたら、


・☆☆☆→★★★


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