第61話 美少女のサンドイッチ
「婚約の話を断るっていっても……知香の判断で決められる?」
透が反対なら、知香は新しい婚約の話を断ると言った。でも、そんなことが可能なのだろうか?
知香は得意げな顔になる
「昔より私の近衛家での立場は強いの。もうただの子供じゃないもの。いろいろ手はあるわ」
透はベッドの隣に横たわる知香を見つめる。
そう。透も知香も大人ではないかもしれないけれど、子供ではない。
シャツパジャマの上からでもわかる、知香の大きな胸に目が行く。
知香も視線に気づいたのか、頬を赤くして、胸を両手で隠す。でも、知香の目に嫌悪感はなかった。
「透も大人になったんだね」
「そ、それ、どういう意味?」
「言葉通りの意味」
ふふっと知香が笑う。そして、つないだ手の感触を確かめるように、知香が透の手を撫でたり触ったりしていた。
知香の小さな手を感じ、透はうろたえる。
「と、知香……」
「あっ、名前、呼んでくれるんだ……」
「ご、ごめん」
「なんで謝るの? 嬉しいのに」
「それは……。えっと、その新しい婚約者ってどんな人?」
「誤魔化すんだ。まあ、いいけどね。ちょっと年上だけど、優しくて美形で、お金持ちのいい人みたい。もちろん家柄もいいの」
「なら……」
「でもね。私は透が婚約者の方が嬉しいな。だって、私、透のこと……」
知香はそこで言葉を切って、透を潤んだ瞳で見つめる。
透にとって知香は大事な幼馴染で、知香は透のことが好きで……でも、元の婚約者の関係には戻れない。
「仮に近衛さんが婚約を断っても、俺と近衛さんが婚約者になるのは……できないよ」
透は愛乃の婚約者だ。それに、近衛本家にとっても、透を知香の婿として後継者にする理由ももはやない。
知香は目をそらし、寂しそうにうなずく。
「そんなこと……わかってる。でも、今、この瞬間は、私は透のそばにいられるんだよね?」
知香は少し身じろぎして、透に体を寄せる。体が触れ合うほどの距離で、知香の胸が透にあたっている。
「近衛さん……その……む、胸が……」
「あ、当ててるの。こうしていると……恋人みたいだよね」
知香はそう言って、恥ずかしそうにしながら透を見つめた。
たしかにベッドで寝巻き姿で一緒に寝るなんて、恋人のようだ。
しかも、エッチなことをしたあとかのような雰囲気すらある。
ふわりと知香の甘い香りがして、透は知香を抱き寄せたくなる衝動に駆られた。
透には愛乃がいて、愛乃のことが大事だ。それでも、こんなふうに美少女に密着されると理性が維持できない。
「もしあんな事件さえなかったら、本当は今頃二人で……」
知香がそう言ったのとほぼ同時に、透の背中に大きくて柔らかいものが当てられた。
「透くん……大好き……」
「あ、愛乃さん!?」
愛乃は起きているわけではなく、寝ぼけて背後から透を抱きしめたようだった。
けれど、透からしてみれば、前からは知香の胸、後ろからは愛乃の胸にはさまれ、サンドイッチのような形になっている。
知香がむうっと不満そうに頬を膨らませる。
「リュティさんには負けないんだから……」
知香は小さくつぶやいた。
<あとがき>
次回は愛乃とのイチャイチャですっ! ☆☆☆での応援いただければ嬉しいです!
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