第60話 昔みたいに

「透くん……おっぱい触って……」


 愛乃がとんでもないことを言ったので、透はびくっと震えた。

 ただ、愛乃の目は閉じられていて、すやすやと寝息を立てている。


 寝言みたいだった。

 透はほっとするけれど、愛乃の腕は背中から透の腰に回されていて、ぎゅっと抱きしめている。

 

 今、透は家のベッドの上で、愛乃と知香の二人と一緒に寝ていた。婚約者と元婚約者の二人の美少女は、透を挟むように左右に並んで寝ている。


 ネグリジェ姿の愛乃は薄着だし、その胸が透に押し当てられている。振り返れば、きっと胸の谷間もばっちり見える。


(ね、眠れない……)


 透が悶々としていると、目の前の知香が透をジト目でにらみつける。


「デレデレしちゃって、透ってばカッコ悪い……」


「で、デレデレなんてしてないよ」


「嘘つき。リュティさんのおっぱい大きいなあとか思ってたくせに」


 透が口ごもると、知香は不機嫌そうに「図星なんだ……」と言う。


「私相手にはそんな態度、見せなかったくせに……」


「え、えっと……もしかして……


「や、ヤキモチなんて焼いてないから!」


 実際には嫉妬していたのだと思う。

 透は知香の手をぎゅっと握ってみた。

 

 知香は急に顔を赤くして、どぎまぎした様子で透を見つめる。


「と、透……?」


「ごめん。嫌だったらやめるけど……」


「い、嫌じゃない。でも、こんなこと、女の子なら誰にでも気軽にするわけ?」


「いや、近衛さんだからだよ」


 透は深く考えずにそう言ったけど、知香はぱっと顔を明るくした。


「ふうん。私、だから、ね」

 

 嬉しそうな知香は、くすっと笑う。


(やっぱり……知香は、今でも俺のことが好きなんだ……)


 そのことを改めて意識させられる。では、透はどうすればよいのか。


 もちろん、今の透の婚約者は愛乃だ。愛乃の力になると、透は約束した。

 同時に知香は元婚約者で、幼馴染で従妹でもある。透にとって守るべき存在だったのに、守ることができなかった子だ。

 

 その知香が透のことをまだ好きだと言っている。


 ただ、愛乃の婚約者でいながら、知香の気持ちに応えることはできない。つまり、透はどちらかを選ばないといけない。


「ねえ、透。わたしが他の誰かと結婚するって聞いても、少しも残念には思わない?」


「それは……」


 知香の問に透は口ごもってしまう。知香は微笑んだ。


「少しは残念だって思ってくれているんだ?」


「そうかもしれない。身勝手だとは思うけど……」


「ううん。嬉しい。あのね、私、実は新しい婚約の話があるの」

 

 知香は目を伏せて、小声で言う。

 透は驚いたけれど、知香も16歳になるし、近衛家なら新しい婚約者を用意して当然だ。


「もし婚約したら、こうやって透の家に来ることもできないから。せっかく透と昔みたいに……」


 幼馴染らしい関係に戻れたのに。知香はそう言いたいのだと思う。


「あのね。もし透が反対なら……私は婚約を断ろうかなって思うの。透はどう思う?」


 知香は黒い目で透を見つめ、そう問いかけた。






<あとがき>


大変おまたせしました! 更新再開です(*´ω`*)


・☆☆☆レビュー


での応援、お待ちしています。続きを書く励みになります!


また、百合ラブコメ作品も投稿中です!

タイトル:悪役令嬢の妹に生まれましたが、破滅後のお姉ちゃんを幸せにするのは私です 

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139555528541311


こちらもお読みいただければ嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る