第56話 近衛さんは勝てないよ?

 知香は完全に愛乃のペースに乗せられて、ちょっとぐらいなら「エッチなこと」を透にされても平気だと言ってしまった。


(ちょっとぐらいってどれぐらいだろう……?)


 透は考えてから、首をぶんぶんと横に振る。そもそも何もおかしなことをするつもりなんて、透にはなかった。

 けれど、愛乃はそうは思わなかったらしい。


 愛乃はジト目で知香を睨む。


「ほら、やっぱり透くんにエッチなことをされたいんだ?」


「さ、されたいわけじゃなくて、されても仕方がないってこと!」


「本当かなあ」


 愛乃は小首をかしげて、そして、ふふっと笑う。


「でも、近衛さんだけがエッチなことをされるのは不公平だもの。やっぱり、真ん中に寝るのは透くんだよね」


「えーと、どうして?」


「だって、そうすれば透くんが近衛さんじゃなくて、わたしにエッチなことをしてくれるかもしれないから」


「愛乃さんにも近衛さんにも、どちらにも変なことはしないよ」


「ふうん。透くんはわたしたちにそういうこと、したくないの?」


 透も健全な男子高校生で、女の子に興味がないわけない。愛乃や知香にそういうことをしたくない、といえば嘘になる。二人とも凄まじい美少女だし、女子高生としてはスタイル抜群だ。


 だからといって、実際に愛乃や知香におかしなことをするかどうかは別問題だ。愛乃は婚約者で、知香は幼馴染で、透にとってはどちらも大事な少女なのだ。


 でも、愛乃は透に一歩近づき、ぎゅっと右手を握った。愛乃の小さな手のひんやりとした感触に透はどきりとする。頬が熱くなるのを感じた。


 愛乃は上目遣いに透を見て、そしてくすっと笑う。


「手をつなぐだけで真っ赤になるのに、わたしの体に興味がないわけないよね?」


 わたしの体、という言葉を、愛乃は少しゆっくりと発音した。その言葉に妙な色っぽさを感じてしまう。


 透はつい、ちらりと愛乃を見た。金髪碧眼の美少女は、小柄だけれどスタイルが良くて……無防備なネグリジェ姿だから、なおさらその美しい体が強調される。

 しかも、ネグリジェは薄手の布地だから肌が軽く透けているし、しかも豊かな胸の谷間もはっきりと見えている。


 透がどこを見ているのか、愛乃もわかったらしい。愛乃は頬を赤くして、うつむいた。


「答えなくても、透くんがエッチなことをしたいってわかっちゃった。今、わたしの胸を見てたもの」


「ご、ごめん」


「ううん。見てもらうために、こういう服を着ているんだもの」


 愛乃は小さな声でささやいた。つまり、透に大きな胸を見せつけるためにこのネグリジェを選んだらしい。

 知香が頬を膨らませる。


「やっぱり透もリュティさんもエッチなことしか考えていないじゃない!」


「あ、近衛さんは透くんに自分を見てもらえないからヤキモチ焼いてるんだ?」


「嫉妬なんてしてない!」


「でも、近衛さんはわたしには勝てないよ。おっぱいだって……透くんに見てもらえるように工夫したんだから」


 言ってから、愛乃は恥ずかしくなったのか、手で胸の谷間を隠す。つまり、胸の谷間もわざとチラ見せさせているらしい。

 知香は口をぱくぱくとさせていた。何か言い返そうとしているみたいだけれど、何も言えないらしい。

 

 愛乃は挑発的に、面白がるように、青いサファイアのような瞳で知香を見つめていた。


「透くんが望むなら、わたしはどんなエッチなことでも……されてもいいの。だって、わたしは婚約者だから。『ちょっとぐらいなら』エッチされてもいい幼馴染の近衛さんとは、覚悟が違うもの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る