第54話 わたしにしてね?
「それに、これから三人で同じベッドで寝るんだもの。寝ているあいだに、わたしたち、透くんに襲われちゃうかもね」
そんなとんでもないことを愛乃は言い出した。
知香はかあっと顔を赤くして、目を泳がせる。
いま、透の目の前のソファに、二人の美少女は座っている。愛乃も知香もラフな部屋着姿で、ショートパンツだから、白い太ももが目にまぶしい。
しかも、高校生にしては大きな胸がTシャツを押し上げていて、透はつい二人の胸の膨らみを見てしまった。
愛乃の胸が軽く揺れるのを目で追ってしまう
(事故とはいえ、さっきまで俺があの胸を触ってしまっていたんだっけ……)
愛乃が「あっ」と声を上げ、楽しそうに透を見返した。
「ほら、透くんもわたしたちのことをエッチな目で見てる!」
知香は慌てた様子で胸を両手で抱き、隠そうとした。そして、ジト目で透を睨む。
「さ、最低っ!」
透は言い返せなかった。
ベッドの上で襲われるかも、と愛乃たちが心配するのは当然といえば、当然だ。
でも、愛乃は楽しそうだった。
「わたしは……と、透くんにだったら、襲われてもいいかも」
「リュティさん!? な、何言ってるの!?」
「近衛さんだって、本当は同じでしょう?」
「わ、私はあなたみたいな破廉恥な子じゃないの! 透に胸を触られたりキスされたりしたいなんて、これっぽっちも思ってないんだからっ」
「えー、近衛さんこそ、あざといスク水姿で透くんを誘惑したくせに」
「ゆ、誘惑なんてしてない! あ、あれはあなたちを監視するために着てきただけだから」
「うんうん。監視しないといけないんだものね。だから、近衛さんも透くんやわたしと一緒のベッドで寝るし、襲われても平気だよね?」
「へ、平気なわけない! け、けど……一緒には寝る」
知香はそう言って、目を伏せた。その黒い瞳が不安そうに揺れている。
透は心配になる。
「近衛さんが無理する必要はないと思うけど」
「私がいなかったら、絶対に透とリュティさんが……変なことするもの」
「しないよ」
「嘘つき。リュティさんを妊娠させちゃうくせに」
知香の言葉に、透は思いついた。この家にはベッドが一つしかなくて、透と愛乃が一緒に寝ている。それが不安なら、透が別の場所で寝ればいい。
(俺一人なら、一応ソファで眠れるかも……)
少し狭けれど仕方ない。ところが、透がそう言うと、愛乃と知香は顔を見合わせ、二人揃って反対した。
知香の言い分はこうだった。
「私のせいで透が狭いソファで寝るなんて、悪いもの」
「俺のこと、気にかけてくれるんだ?」
透は思わずそう言うと、知香は恥ずかしそうにこくりとうなずいた。こないだまで険悪な仲だったから、調子が狂う。
「そ、それに……さっきの映画のせいで怖くて眠れなさそうだし。でも透が隣にいれば……」
安心できる。
知香はそう言いたいようだった。知香は上目遣いに透を見る。
「で、でも、絶対に私を襲ったりしたら、ダメなんだから」
知香はそう言うと、赤い頬のまま、ぷいっと視線をそらした。
愛乃はそんな知香を見て、柔らかく微笑む
「わたしは透くんと一緒に寝たいもの。それにね、透くんが隣にいたら……とても安心して眠れたし」
愛乃は不眠症だったというけれど、昨日は全然そんな様子はなかった。それは透のおかげなのだという。
少しくすぐったいけれど、そう言われると嬉しい。
「今日は透くんに襲われるかと思うと、ドキドキして眠れないかも」
「襲ったりしないってば! 俺をなんだと思ってるの?」
透が苦笑して言うと、愛乃はいたずらっぽく青い宝石のような瞳透を輝かせる
「わたしのことを可愛いって言って、子作りしたいって言った男の子。そして、わたしの大事な婚約者だよ?」
直球で言われ、透は恥ずかしくなった。
その瞬間、愛乃はソファから立ち上がって、そして透に正面から大きな胸を押し当てた。Tシャツ越しに愛乃の胸の感触が伝わり、透はうろたえる。
愛乃は透の耳元でささやく。
「それに、近衛さんの前で、婚約者としてイチャつきたいもの。透くんはそういうことしたくない?」
「そ、それは……」
したくないと言えば、嘘になる。同時に知香の目の前でそんなことをする勇気も透にはなかった。
けれど、愛乃はそんな透を媚びるように見つめた。
「襲うのは近衛さんじゃなくて、わたしにしてね?」
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