第53話 襲われちゃうかも
ホラー映画はよくできていたけれど、透はたくさん見ていて慣れている。そんなに怖いことはない。
透が困ったのは、両隣の少女たちの存在だった。
「えーと」
ソファの横に座る愛乃と知香は、二人ともぎゅっと透に抱きついていた。
知香はがたがた震え、愛乃はちょっと楽しそうに。
「と、透……」
その続きは言葉にならなかったようで、知香が透に必死でしがみついていた。
よっぽど怖いのだろう。
でも、透にとっては、映画の内容よりも、部屋着のTシャツ越しに伝わってくる知香の胸の感触の方が気になった。
透は思わず頬が熱くなるのを感じた。
知香は、そんなことには気づいていなさそうだけれど。
照れ隠しのために、透は知香に聞いてみる。
「ホラー映画、苦手だったの?」
「に、苦手なんかじゃない!」
「無理しなくても、言ってくれれば良かったのに」
「わ、私に弱点なんてないんだから」
透もそう思っていたけれど、知香はホラーが弱点らしい。昔は、ずっと一緒にいたのに、意外と知らない面があるものだなと思う。
明日夏に教えたら、知香と一緒にホラーを見ようと言い出すかもしれない。
(そうだ。明日夏に告白されたことも、ちゃんと考えないとな……)
いつまでも何もせずにいるのは、不誠実だ。
ただ、愛乃との同棲に、知香の押しかけもあって、今日はそれで精一杯だった。
画面ではいかにも怖いシーンが流れ、知香が悲鳴を上げる。
一方、愛乃は怖がっていないことはなさそうだったけれど、どこか余裕があった。
「面白いけど怖いねー。透くんが隣にいなかったら、わたし逃げ出しちゃうかも」
そんなことを言いながら、愛乃は透にぎゅっとしがみつき、胸を押し当てる。
左右から知香と愛乃の胸に挟まれて、透はうろたえてしまう。
(全然、映画に集中できない……)
知香は本当に怖がって無意識に透にくっついているのだと思うけれど、愛乃はわざとやっている気がする。
「透くん、映画に集中しないとダメだよ?」
愛乃がからかうように言う。そして、愛乃は透の耳元に唇を近づけた。
「そんなに近衛さんの胸が気になる?」
「き、気になってなんかいないよ」
「嘘つき。それなら、近衛さんのおっぱいを触ってあげたら?」
「なんでそんなセクハラを俺がするわけ?」
「そうしたら、近衛さんも怖いのがマシになるかも。それに、きっと近衛さんは喜ぶからセクハラじゃないよ」
愛乃が冗談めかして言う。
透はちらりと知香を見た。知香は顔を青くしていて、そろそろ限界のようだった。
愛乃の提案にはもちろん乗らないけれど、可哀想なので映画鑑賞は中止にしよう。
透がそう思って停止ボタンを押すのとほぼ同時に、知香が耐えきれなくなったのか、「ひっ」と悲鳴を上げて、透に抱きついた。そのはずみに透はバランスを崩す。
透のとなりの愛乃も巻き込んで、三人はくんずほぐれつでソファに倒れ込んでしまった。
「いたたた……」
透が体を起こそうとし、そして、大変なことに気づく、倒れたはずみに何かにつかまろうと手を伸ばし……右手は愛乃の胸を、左手は知香の胸をつかんでいた。
「あっ」「んんっ」
愛乃と知香が同時に甘い声を上げる。透は慌てて、つい力を手にこめてしまった。
知香がびくっと震え、愛乃も恥ずかしそうに目を伏せた。
そして、二人が透を見つめる。
「と、透のエッチ……は、放してよっ」
知香が小声で恥ずかしそうに言う。
透はすぐに手を放し、「ごめん」と言って、二人から離れた。
けれど、愛乃はふふっと笑っていた。
「わたしはもっと触ってほしかったけどな。近衛さんもそうでしょう?」
「ち、違うわ。そんなわけないでしょう」
「ふうん。なら、わたしが透くんにおっぱいを触られるのを見ても、羨ましくない?」
「そ、そんなふしだらなことは許さないんだから!」
「わたしは、お風呂でいっぱい触られちゃったけどね」
愛乃はくすっと笑った。
一方の知香は、悔しそうに愛乃を睨んでいた。
「それに、これから三人で同じベッドで寝るんだもの。寝ているあいだに、わたしたち、透くんに襲われちゃうかもね」
そんなとんでもないことを愛乃は言い出した。
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