第42話 二人の胸
愛乃が透に胸を押し当て、それを知香が不機嫌そうに見ている。
この状況に透は困ってしまった。
むぎゅっと愛乃の大きな胸が、透にますます強く押し当てられる。
「あ、愛乃さん……近衛さんが見ているから……」
「見せつけているの」
愛乃が体を軽く動かし、透の胸板と愛乃の胸がこすれる。愛乃は「んっ」と小さな甘い声を上げる。
知香が耐えられなくなったのか、そこに割って入ろうとする。
「わ、私はあなたたちがそういうハレンチなことをしないように監視しに来たのに、私の目の前でよくそんなことができるわね!?」
愛乃はくすっと笑う。
「近衛さんも素直になったほうが良いと思うけど。今のままだと、わたしに負けちゃうよ?」
「私はあなたと勝負なんてしていない!」
「ふうん。なら、わたしだけがこうやって透くんとイチャイチャしちゃうけど良いの?」
「良くないわ!」
「ね。それなら、近衛さんも、透くんに抱きついてみたら?」
「どうしてそういう話になるわけ?」
「近衛さんが透くんに抱きついたら、わたしは透くんから離れるけど、どう?」
愛乃は謎の取引を持ちかけた。
(愛乃さんは、知香の態度を変えたいんだろうけど……)
それにしても、手段が強引だ。
だいいち、知香がそんな取引に乗るかどうか……。
けれど、知香はしばらくためらった後、うなずいてしまった。
知香が透の背後に回り、そして透の胸板に手を回した。
そして、ぎゅっとしがみつく。
その質感のある胸が、透の背中に押し当てられる。
透はどくんと心臓が跳ねるのを感じた。愛乃より若干小さいが、柔らかい胸の感触がはっきりとわかる。
焦って、透は声を上げる。
「こ、近衛さん……!」
「わ、私も恥ずかしいんだから……我慢して」
「は、恥ずかしいなら、こんなことしなければいいのに……」
「そうしたら、透はずっとリュティさんに抱きつかれたまま、デレデレしているでしょう?」
知香がそんなことを言う。
正面の愛乃はにっこりと笑って、透に胸を押し当てたままだった。
前方からは愛乃の胸が、後方からは知香の胸が押し当てられていて、透はどきどきさせられた。
愛乃がからかうようにささやく。
「両手に花だね、透くん」
知香が後ろからむっとした様子で声をかける。
「リュティさんは、離れなさいよ!」
「あ、近衛さん、透くんのこと、独り占めしたいんだ?」
「そういう約束でしょ!?」
透の肩越しに二人の少女がばちばちと火花を散らし、そして、二人の甘い声が透の耳元をくすぐった。
(ど、どうなっちゃうんだろう……?)
愛乃と知香の柔らかい体の感触に、透は頬が熱くなるのを感じた。
これは始まりにすぎない。
この後に、愛乃と知香と一緒に風呂に入り、一緒のベッドで寝るわけで……。
そのとき、透が自分の理性を維持できるか、怪しかった。
愛乃は顔を赤くして、くすっと笑う。
「照れている透くんも、可愛いよね。近衛さんもそう思わない?」
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