第41話 わたしだけをエッチな目で見てほしいな
知香は、二階の部屋に荷物を置きに行った。
透は手伝おうとしたのだけれど、「軽いから」と断られてしまったので、愛乃と一緒に一階にいる。
でも、知香がいないのは、ちょうどよい機会だ。
透は愛乃の真意を問いただすことにした。
どうして愛乃は、透だけではなく、知香と一緒にお風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たりすることを提案したのか。
愛乃の答えはこうだった。
「わたしと透くんの婚約者らしいところを見せつけるためだよ。近衛さんの前で、イチャイチャしちゃおうかなって」
「それだけ?」
「ううん。近衛さんにはね、自分の本当の気持ちに、正直になってほしいと思ったの。近衛さんは、きっと透くんのことが今でも大事なんだよ」
「そうかな。俺は……ずっと、知香に嫌われていると思っていたけど」
愛乃は透の言葉を否定しなかった。
代わりに静かに言う。
「大事だからこそ、嫌いになったり憎んだりするんだよ。近衛さんは、透くんのことが嫌いで、それでも好きなんだと思うな」
愛乃の言葉は矛盾しているようにも思えるけれど、透は否定できなかった。
これまでの知香の反応を思い出す。
本当は透に抱きしめてほしかった、という知香の発言や、この家に乗り込んできて、透と愛乃を監視するという知香の行動。
それになにより、知香の愛乃に対する対抗心。
そういったことを考えると、愛乃の言う通り、知香は透にまだ特別な感情があるのかもしれなかった。
愛乃は透の内心を見透かしたように言う。
「もし近衛さんがまだ透くんのことを好きで、婚約者に戻れるとしたら、どうする?」
「え……?」
そんなこと、透は考えたこともなかった。
知香が透にとって大事な幼馴染であることは、今も変わらない。たとえ、婚約を破棄され、家から追い出されても、透はかつて知香のことが好きだった。
透が即答できずにいると、愛乃が頬を膨らませた。
「ほらね、透くんは迷っちゃうでしょう?」
透ははっとした。そして、慌てて言う。
「今は愛乃さんがいるから、近衛さんの婚約者に戻るなんて、ありえないよ」
「ありがとう。でもね、わたしは……一瞬の迷いもなしに、透くんにはわたしのことを選んでほしいの」
愛乃は澄んだ青い瞳で、透をじっと見つめた。
そして、愛乃はささやく。
「だからね、わたしは……素直になった知香さんに勝つ必要があるの」
「それで、一緒にお風呂や一緒に寝ることを提案したの?」
「うん。だからね、覚悟しておいてね。わたしのほうが、近衛さんより、透くんのことを大事にできるって証明してみせるから」
愛乃はくすっと笑い、透に甘えるように身を寄せた。
ぎゅっとしがみつかれ、透はどきりとする。
ほぼ同時に知香が戻ってきた。
知香は、密着する透と愛乃を見て、憤慨した表情を浮かべた。
「ま、また、そんなはしたないことをしている……!」
「羨ましいなら、近衛さんもやってみる?」
「う、羨ましくなんてない!」
「ふうん。本当に?」
「本当に!」
愛乃と知香のやり取りを見て、透はどきどきした。
二人がばちばち火花を飛ばしているだけでも、透は困ってしまうけれど、これはまだ、始まりにすぎない。
今日の夜には、愛乃と知香の二人の美少女と一緒に裸で風呂に入ることになるのだから。
そのとき、どんなことになるか。
透はブレザーの制服姿の愛乃と知香を見て、二人が裸になったところを想像して、一人で赤面した。
愛乃は小柄で華奢だけれど、胸は大きいし、知香もすらりとしたスタイル抜群の美少女だ。
愛乃はそんな透を振り向いて、くすりと笑う。
「いま、わたしたちのことをエッチな目で見たでしょう?」
「み、見てないよ!」
「わたしのことだけを、そういう目で見てくれるんじゃなかったの?」
「近衛さんのことはそんな目で見ていないよ」
透がそうやって嘘をつくと、知香は不満そうに頬を膨らませていた。
愛乃はくすっと笑う。
「わたしのほうが近衛さんより魅力的だものね?」
そうして愛乃はいたずらっぽく透を見上げ、ぎゅっと正面から、その大きな胸を透に押し当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます