第34話 明日夏の反撃

 登校中、愛乃はとても上機嫌だった。

 口笛でも吹きそうな感じで、ちょっと可愛い。


 とはいえ、困ったこともある。


「あ、愛乃さん……あまりくっつかれると俺が困るというか……」


 愛乃は透の腕をひしっと両手でつかんでいる。まるで恋人のように二人で腕を組んだ形になっていた。


 そうすると、愛乃の大きな胸で、透の腕が包まれるような感じになる。

 透はその柔らかい感触に、頬が熱くなるのを感じていた。


 愛乃はくすっと笑う。


「どうして透くんは困るの?」


「……わからない?」


「あっ、透くん、照れてるんだ。可愛い!」


 愛乃がいたずらっぽくサファイアのような青い瞳を輝かせる。


 周囲の視線が気になるし、愛乃の胸の感触も気になる。

 照れない方がどうかしてる、と透は思った。


 でも、愛乃が嬉しそうなので、振り払うこともできない。

 代わりに透は小声で言う。


「男なのに、可愛いって言われると複雑な気分だよ……」


「わたしは透くんのこと、可愛いだけじゃなくて、カッコいいとも思ってるよ?」


 愛乃の直球の言葉に、透はうろたえた。

 完全に愛乃のペースに乗せられている。


 愛乃が幸せそうに微笑む。

 そして、ますますぎゅっと透に抱きついた。


「こうしていると、制服デートみたいだよね」


「まあ、たしかにそうかも……」


 透が肯定すると、愛乃が「ね!」と楽しそうにうなずく。

 

 そろそろ学校も近づいてきて、他の生徒たちの視線が気になる。

 知り合いもいるような気がして、冷や汗をかく。


 そして、実際に知り合いがいた。


 道路の曲がり角を曲がると、そこにはすらりとした長身の少女がいた。

 制服を少し着崩しているけど、かなりの美人だ。


 クラスメイトの桜井明日夏だった。

 明日夏が、透たちに気づき、「あっ」と声を上げる。

 

 そして、透と愛乃が腕を組んでいるのを見て、明日夏は顔を赤くした。


(き、気まずい……)


 図書室で愛乃が「連城くんは、わたしと子どもを作りたいっていったくせに!」なんて爆弾発言をしたとき、明日夏もそこにいたのだ

 

 そして、そのとき、愛乃は明日夏に、「連城くんのことが好きなの?」と尋ねた。どうして愛乃がそんなことを疑ったのかはわからないけれど、それ以来、明日夏とは教室でもちゃんと話せていない。


 明日夏は立ち止まり、深呼吸をしているようだった。

 そして、こちらに向かってきて、透と愛乃を睨む。


「連城とリュティさんは、朝から楽しそうね?」


「婚約者だもの」


 愛乃が微笑んで答える。


 愛乃の青い瞳と、明日夏の黒い瞳が、まるでばちばちと火花を散らすように、交差する。


 横で見ていた透ははらはらとした。

 愛乃が明日夏に見せつけるように、透に胸を押し当てる。透は狼狽し、明日夏は頬を膨らませていた。


「わたしと透くん、一緒の家に住んでるんだよ? 婚約者だから」


 愛乃は明日夏に言うと、明日夏はショックを受けたようだった。

 だが、明日夏はすぐに立ち直ったように、不敵な笑みを浮かべる。


「それがどうしたの? リュティさんは、連城と話すようになったのは最近でしょ? ……あたしの方がずっと長く連城のことを知っているんだから!」


 明日夏が愛乃に対抗するように宣言する。透は明日夏がどうしてそんなふうに愛乃に対抗心を持つのか、不思議だった。


 透と明日夏は「打倒近衛知香!」のための関係だったはずだ。けれど、今の明日夏は、知香のことなんて忘れていて、目の前の透と愛乃だけを見ているように思える。


 愛乃は余裕の笑みを浮かべていた。


「でも、これからは、わたしの方が透くんのことを深く知っていくんだよ?」


「そうね。このままだったら、そうなってしまうのかもね」


 そして、明日夏はちらりと透を見て、恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 小さな声で、明日夏は言う。


「こないだは、あたしは嘘をついたの」


「え?」


「連城のことなんて好きじゃない、って、あたしは言ったよね。でも、それは嘘」


 透は息を呑む。隣の愛乃の様子を伺うと、愛乃は青い瞳で静かに明日夏を見つめていた。


 明日夏は耳まで顔を赤くている。


 そして、明日夏は決意したように、透をまっすぐに見つめた。 


「もし……あたしが連城のことを好きだって言ったら、どうする?」












<あとがき>

愛乃vs明日夏が本格化……! 


面白い!

愛乃が可愛いっ!

続きが気になる……!


と思っていただたら


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