第33話 新婚さんみたいだよね
目の前にはブレザーの制服姿の愛乃がいる。
今は朝の7時半。
そして、透も制服姿で、同じ家の一階のリビングにいた。二人で食卓について、昨日コンビニで買ってきた朝食を食べているのだ。
おにぎりと、インスタントの味噌汁をはふはふと愛乃は可愛らしく食べている。
そして、透を嬉しそうに見つめる。
「こうしていると、家族って感じがするよね」
「たしかに」
透は素直にうなずいた。近衛家を追い出されてから、透は一人暮らしが長かった
こうして、誰かと朝ごはんを食べるなんて、久しぶりだ。
愛乃は微笑む。
「明日からはわたしが朝ごはん作ってあげよっか?」
「愛乃さんって、料理できるの?」
「えっと……頑張れば、できると思う」
つまり、あまり料理したことはないということだった。
愛乃も基本的にはお嬢様育ちだし、無理もない。
透は思わず、くすっと笑った。
「俺がやろうか。割と慣れているし」
「そうなの?」
「まあね」
一人暮らしの経験があるからでもあるけれど、それ以上に、透は小学生の頃、近衛家の屋敷の専属料理人に可愛がってもらっていた。
透が料理に興味があると知って、彼女は喜んで透にいろいろと教えてくれた。今思うと、それはけっこう本格的なものだったと思う。
近衛家の屋敷では、その料理人の女性はかなり暇だったから、彼女にとっては退屈しのぎだったのかもしれない。
秘書の冬華もだけれど、近衛家は使用人の待遇は悪くない。給料は高くて、労働環境も良い。
それは、近衛家の大財閥としての余裕と貫禄の証でもあった。代わりに身内の親族には厳しいのだけれど。
「そういうわけだから、愛乃さんは無理しなくてもいいよ」
「でも……それだと透くんに悪いよ」
「そうかな。じゃあ、家事の分担とかも考えることにしようか」
そうした方が、愛乃も精神的負担がなくていいと思う。一緒に暮らす以上は、避けては通れない話でもあるし。
愛乃は微笑んで「うん」とうなずいた。
「あと、よかったら、わたしに料理を教えてほしいな」
「もちろん。そんなことでよければいくらでもやるよ」
「ありがとう。わたしたち……新婚さんみたいだね?」
愛乃はいたずらっぽく青い瞳を輝かせた。
透は頬が熱くなるのを感じる。
こんな可愛い子と結婚できるのであれば、喜ばない男はいないと思う。
そして、今の透は愛乃の婚約者なのだった。
透は照れ隠しに話題を変えることにした。
「とりあえず、学校に行くことにしよっか」
学校には歩いて行ける距離に、この家はある。
それほど慌てなくても良いけれど、そろそろ出かける準備をした方がよい時間だ。
愛乃は甘えるように、透を青い瞳で上目遣いに見る。
「あのね、お願いがあるの」
「なに?」
愛乃の願いで、透に叶えることができるものがあれば、何でもする。
ちょっと恥ずかしそうに、愛乃はささやく。
「透くんと一緒に歩いて学校まで行ってもいい?」
「そ、それは……」
「ダメ?」
「ダメってことはないけど、クラスのみんなに冷やかされそうだな」
同じ家を出て、学校へ行き、教室へ入れば、どういう仲なのかと疑われるだろう。
説明が大変になる。クラスメイトの明日夏が自分を睨んで「どういうこと?」と詰め寄る姿を透は想像してしまった。
愛乃は首をちょこんとかしげた。
「婚約者だって言えばいいと思うよ?」
「でも、ちょっと恥ずかしくない? 隠しておいた方が無難だと思うけど」
「わたし、透くんの婚約者なのが恥ずかしいなんて思わないよ」
愛乃にまっすぐに見つめられ、透はたじろいだ。
そのとおりだ。
別に愛乃と婚約者なのを恥ずかしがる必要もないし、恥ずかしがるのは愛乃に失礼とも言える。
愛乃はくすっと笑う。
「それに、わたしと子どもを作りたいなんて言って、わたしと一緒のお風呂に入って、わたしと一緒のベッドで寝て、わたしの胸を揉みしだいたのに、いまさら恥ずかしいことなんてないよね?」
「……おっしゃるとおりで」
透はちらりと愛乃の胸を見てしまい、愛乃は恥ずかしがるように両手で肩を抱いて胸を隠した。
そして、愛乃は顔を赤くする。
「やっぱり、透くんってエッチだよね」
「ち、違うよ……」
「近衛さんや桜井さんにも、昨日、透くんがわたしにしてくれたこと、自慢しちゃおうかな」
「それは勘弁してほしいな……」
「今日も帰ってきたら、わたしにそういうことをしてもいいんだよ?」
愛乃は透の耳元でささやいた。透はどきりとする。
きっと愛乃は、今日も一緒のお風呂に入り、一緒のベッドで寝るつもりなのだ。
そして、愛乃は言う。
「だから、一緒に学校に行けると嬉しいな」
愛乃の言葉に、透は降参した。
こうして、透は愛乃と一緒に学校に登校することになった。
<あとがき>
次回、明日夏の登場!
面白い!
愛乃が可愛いー!
愛乃vs知香・明日夏にも期待……!
と思っていただたら
・☆☆☆+の評価ボタン
・フォロー
で応援をいただければ大変嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます