第25話 秘密だよ?

「連城くんは、わたしと一緒に寝たくない?」


 ベッドに座っている愛乃は、頬を赤くして微笑んでいる。

 透は狼狽した。

 いくら婚約者だからといっても、さすがにそれはまずい気がする。付き合っているわけでもないのに。


「えっと、俺たちは未成年だし、なにかあったら……」


「連城くんはわたしが一緒のベッドだと嫌?」


「嫌ってことはなくて、むしろ嬉しいけど……」


 透は思わず本音を言ってしまい、しまったと思う。愛乃みたいな美少女が、自分の隣にいたいと思ってくれることは、嬉しいことだった。


 愛乃は透を信頼してくれていて、必要としてくれている。知香と近衛家に見限られてから、そんなことはずっとなかった。

 

 だから、愛乃がそう言ってくれるのは嬉しい。嬉しいのだけれど……。

 愛乃はぱっと顔を輝かせる。


「わたしは連城くんと一緒に寝たいし、連城くんもわたしと一緒に寝たいなら、何も問題はないよね?」


「そ、そうだけど……」


 愛乃があまりにも積極的なので、透はたじたじとなってしまう。愛乃も自分でも恥ずかしくなったのか、目を伏せた。


 そして、小声でささやく。


「あのね、わたし……夜、眠れないことが多いの」


「そうなんだ」


「睡眠薬は飲んでるんだけどね。わたし……たぶん、一人でいるのが不安なの」


 愛乃は母親とも上手くいっていないようだし、学校でも一人でいる。

 ずっと孤独で、そして、繊細な性格でもあるようだった。


 不眠症だと聞いても、それほど不思議ではない。


「だからね、もしかしたら、連城くんが隣にいたら……安心して眠れるかもしれないと思ったの。ダメかな?」


 透は迷った。

 同じベッドで寝るなんて問題だと思っていたけれど、愛乃はそれを望んでいる。

 

 そして、透は愛乃の力になると約束した。

 

 透は考えて、うなずいた。


「じゃあ、同じベッドで……寝よう」


「いいの!?」


「もちろん。ああ、えっと、変なことをしたりはしないから」


「別にしてもいいんだよ?」


 愛乃はいたずらっぽく、嬉しそうに青い瞳を輝かせた。

 透は恥ずかしくなって、目をそらす。

 

 話題を変えることにした。


「ええと、夜ご飯は出前を取ることにするとして……」


 当座の生活費は、近衛家から潤沢に支給されている。

 そういう意味では、心配はいらない。


「なにを食べよう?」


「リュティさんの好きなものでいいよ」


「ありがとう」

 

 愛乃は優しく微笑んだ。

 結局、二人で話し合って、無難にピザを頼むことにした。


 愛乃がぽんと手を打つ。


「あとね、近衛さんの前でも言ったけど……一緒の家に住んだら、もう一つ、してみたかったことがあるの」


「俺にできることなら、なんでもするけど」


 透が言うと、愛乃はうなずき、口を開きかけた。

 けれど、愛乃は首をかしげて、考え込む。ふわりと金色の髪が揺れる。


(どうしたんだろう……?)


 愛乃はくすりと笑った。


「やっぱり、秘密」


「ええ!? どうして?」


「だって、言ったら絶対、真面目な連城くんは反対するもの」


「俺が反対するようなことなら、しないでほしいな」


「だ、大丈夫……きっと連城くんも喜んでくれるから。それに、すぐにわかるよ」


 愛乃はとびきりの笑顔で、透に言った。変なことを考えている気がする。


 でも、その笑顔がとても可憐で、可愛くて、透はそれ以上、追及するのを諦めてしまった。


 愛乃の言う通り、その日の夜には、愛乃が何をするつもりだったか、思い知らされることになった。

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