第22話 妊娠してもいいかも
「お、俺とリュティさんが同居するんですか!?」
「婚約者同士だから、『同棲』だよね?」
冬華がわざわざ言い直す。
だが、問題はそこではないと思う。愛乃も知香もびっくりして固まっている。
「住むといっても、どこにですか?」
「場所は近衛家が用意するからー。心配しないで―。豪邸よー」
「そ、そういう問題ですか。だいたい俺たち高校生で同居……同棲したら、不純異性交遊として学校を退学になったりしません?」
「大丈夫、大丈夫。近衛家が決めたことだし、あの学校は近衛家がたくさん寄付しているから」
「そんな無茶苦茶な」
「近衛家が黒を白といえば白になるし、白を黒と言えば白になるのー」
とてもゆるい、ほんわかした口調で、冬華はとても悪の組織らしいことを言った。
実際、この街での近衛家の力は絶大だ。
そして、透と愛乃の婚約は近衛家の意向でもある。
たしかにそれなら問題にはならないのだろう。
「リュティさんのお母様の許可もとっているの。準備万端、順風満帆。明日から透くんとリュティさんには、同じ家でイチャイチャしてもらうから」
知香が慌てた様子だった。
「私はそんなこと聞いていません!」
「ご当主様の決定だよー、知香ちゃん」
冬華はにこにこしながら言う。次期当主の知香にも態度が変わらないところが、冬華のすごいところでもある。
知香は女子高生で、年齢を考えれば、敬語を使う方が不自然だけれど、冬華以外の大人たちは、みんな知香に敬語を使う。
それだけ、近衛一族の力は強い。
「ご当主様は今日はいらっしゃらないから、知香ちゃんが代理だね」
「わ、私は……透とこの子の同居生活を伝えるために、呼び出されたんですか!?」
知香はショックを受けたようだった。近衛家の当主代理として、知香が俺たちに同居しろと命じることになる。
実質的には当主や、俺の後見人の冬華がお膳立てしたことではあるけれど。
それに、知香は何も知らされていなかったらしい。
知香はぐぬぬと美しい顔に悔しさを浮かべ、俺と愛乃を睨む。
「ふ、ふしだらなことをしたら、ダメなんだからね!?」
「しないよ……」
透がつぶやくと、知香は疑わしそうな目で透を見つめ返した。
「でも、透がこんな可愛い子と同じ部屋に住んでいたら――」
「手を出したくなっちゃうかも」
口を挟んだのは、楽しそうな愛乃だった。知香は頬を膨らませて、愛乃を睨みつける。
「冗談みたいに言ってるけど、あなたも気をつけないと」
「気をつける? 何を?」
「そ、その……エッチなことを無理やりされたりとか……」
知香は顔を赤くして、恥ずかしそうに言う。
そんな表情の知香を見るのは、透にとって、久しぶりだ。
愛乃は首をかしげる。
「連城くんはそんなことしないよ?」
「そんなわけない。男はみんなけだものだもの」
「そう?」
「エロい目で見られたりしなかった?」
知香の言葉に、愛乃はちょっと顔を赤くして「ええと……」とつぶやいた。そして、ちらりと透を見る。
たしかに、透は愛乃の胸を見たり、裸のところを想像したりしているので、弁解できない。
愛乃はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「そういえば、連城くん、わたしの胸を見て……わたしと子どもを作りたいって言ってたっけ」
知香がぎょっとした顔をする。さすがの冬華も驚いたように目を見開いた。
誤解だ、と透は言おうとしたけれど、知香は聞く耳を持っていなさそうだった。愛乃は愛乃で、きっと知香に対抗するためにわざと言っている。
「信じられない! 冬華さん、やっぱりダメです。透とこの子を一緒の家に置いておいたら、妊娠しちゃいますよ!」
冬華は「そうねー」と言って、ふふっと笑った。内心が読めない。
一方の愛乃は、青い瞳で、知香を挑むように見つめていた。
「でも、わたしはそれでもいいかなって思うの」
「え?」
「連城くんになら、何をされてもいいかなって。高校生で妊娠して、連城くんの赤ちゃんを産んでも……良い気がするの」
「だ、ダメに決まっているじゃない!」
「だって、わたしたち、婚約者だもの。いつかわたしは連城くんと結婚するの。近衛さんと、わたしは違うもの」
愛乃はそう言った。そして、透を振り向き、真っ赤な顔で、透を上目遣いに見た。
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