第12話 結婚してほしいの!

 透には、愛乃を守るなんて、言うことはできない。そんな無責任なことは口にできなかった。


 知香を助けられなかったのに、透には自分が愛乃の力になれるとは思えなかった。


 ただ、現状、透は愛乃と深く関わることになっている。愛乃が心配そうに透を見る。


「それで、わたしの婚約者になる予定の人って……どんな人だったの?」


 冬華から確認した結果を、透は愛乃に言わないといけなかった。


「俺だった」


「え?」


 愛乃は青い目を大きく見開く。そして、きょとんと可愛らしく小首をかしげる。


 透は愛乃に経緯を説明した。

 つまり、透が近衛家の一員として、愛乃の婚約者となる。そして、将来的には愛乃と結婚することで、愛乃の母の会社の経営権を手にする。


 それが近衛家の狙いだ。


「信じられない……」


 愛乃が小さくつぶやく。透はうなずいた。


「信じられない気持ちはよくわかるよ。ただ、こんな時代錯誤なことを平気でするのが近衛グループだから」


「ううん、そうじゃなくて……。連城くんがわたしの婚約者だってことに驚いちゃって。すごい偶然だなって」


「まあ、たしかに驚いたけどね」


「もしかしたら運命なのかも」


 愛乃はそんなことを言い、そして嬉しそうに透を見つめた。


「つまり、連城くんがわたしの婚約者になってくれれば、それですべて解決ってことだよね」


「そう言われれば、そうだけど、それってつまり俺と結婚するってことだけど、それでいいの?」


「べ、べつに連城くんと結婚したいってわけじゃないんだけれど……」


 愛乃は頬を赤くした。

 仮に近衛家の言う通り、透と愛乃が婚約するにしても、二人は恋人でもないし、ただのクラスメイトだ。


 いろいろと困ったことになると思う。


「リュティさんは、好きでもない相手と結婚させられるなんて嫌じゃない?」


「そ、それは……」


 愛乃はもじもじと白い指を動かし、恥ずかしそうに上目遣いに透を見る。

「えっと、や、やっぱり、わ、わたしは……連城くんとだったら、結婚したいかも」


「え?」


「へ、変な意味じゃなくて! 他の人と結婚させられるぐらいなら、連城くんの方がいいなって。連城くんは……同い年だし、かっこいいし、優しいし……わたしのことをわかってくれるし」


「俺はリュティさんのことを理解しているとは言えないよ」


 ついこないだまで、ほとんど交流のないクラスメイトだったのだから、透は愛乃のことを理解しているなんて、とても言えなかった。


 ただ、愛乃は孤高で冷たい少女ではなくて、本当は気弱で恥ずかしがり屋な、素直になれない女の子なのだといことは、わかったけれど。


 愛乃は微笑む。


「これから理解してくれればいいと思うの。きっと……連城くんはわかってくれると思うから」


「ほ、本当に俺でいいの?」


「うん。わたしは……連城くんとの婚約を受け入れるよ。ううん、連城くん……わたしと結婚してほしいな」


 愛乃は、いたずらっぽく青い瞳を輝かせ、そしてくすっと笑う。

 その顔は耳まで真っ赤で、そして、とても美しく優しい表情が浮かんでいた。

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