第10話 精霊祭と霊樹祭と……

「俺は霧峰才。んじゃ改めて、一年間よろしく」

「……ま、まじ?本物なの?嘘だろ?」

 滝岡がちょいちょいと肩をつついてくる。

 国内外の魔術師の尊敬を集める天才があんな悪質なサプライズを仕掛けてくるような奴なわけないよな?という願望が含まれたその質問に、俺は「残念ながら」とだけ返した。

 彼の功績だけを知っている者からすれば確かに、容易に受け入れることはできないだろう。余りにもイメージと乖離しすぎている。しかし彼の本質は――というか、彼が数多の難問を解き明かせてきた理由の根底には、その無邪気な好奇心が眠っている。

 だからまあ、驚くようなことでもない、かな……いや、ちょっと無理があるな。

「自己紹介から始めたいところだが、今日は時間に限りがあるから、それは次の機会に回す。すまんな」

 先生は先の一幕から完全に気持ちを切り替えたようで、何事もなかったかのように進行し始める。

「いやあの先生……」

「それは無理があるんじゃ」

「あー。聞こえない。あと十分しかないから、学校行事の説明に移るぞー」

 じゃあサプライズなんかするなよ、と思う。多分皆も思ってる。

 ○

「配ったプリントに各行事の写真が掲載されてるから、必要に応じて見てくれ。

「まず最初にある大きい行事は精霊祭だな。これは七月に行われる――まあ、言ってみれば、魔術大会だな。一対一の試合とか、術式の発動の速さ、正確さを競ったりする種目とか、まあ様々ある。自分の適性を見極めたり、ライバルと実力を比べたりするために、全力で参加してくれると嬉しい。

「次は十月にある合宿。……外国に行くとか行かないとか言ってた。投票で決まるみたいだから楽しみにしててくれ。この合宿は、他国の学生や一流の魔術師と交流できる絶好の機会だから、腕と杖を磨いて待ってろ。

「十二月には生徒会選挙がある――他の学校ではそうそう盛り上がらないと思うが、この学園の選挙はお祭り騒ぎになって教師が泣く羽目になる。出来れば穏便に済ませてほしいんだが……十中八九無理だろうな。

「年明けには霊樹祭がある。大規模な文化祭みたいなもんだと思ってくれていい。合宿では他国の生徒と仲良くできるが、霊樹祭では国内の有名魔術学園の生徒とわちゃわちゃできる。勝手に青春してろ。……大体こんな感じか」

 最後の方に私怨的な何かを感じる説明だったが、行事の概要は理解できた。

 この学園はただ魔術技能を向上させるだけでなく、世界で通用する人材を育成することに重点を置いている。様々な人と出会う機会が設けられているのはその一環だろう。楽しみになってきた。

 と、そんなこんなでチャイムが鳴る。

「――今日はこれで終わりな。気をつけて帰れよ」

 礼をすると、皆教室からぱらぱらと退散し始める。

 ……よし、じゃあ俺も早めに帰って妹を宥める用意を――。

「あそうだ、桜浜と瀬之上は残ってくれ」

 そんな殺生な……。


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