第7話 届かぬ声
パズルのピースがはまるような音が響く。
目の前にあった大樹は跡形もなく消え去り、気づけば俺は入学式会場の椅子に座っている。
「なん………」
だ今の、と続けようとした俺の声は、雷鳴交じりの豪雨とも思えるような拍手と歓声によって塗りつぶされる。ワンテンポ遅れて、俺も手をたたいた。
三十秒ほど経った頃。
「代表生徒の皆さん、ありがとうございました。とっても素敵な景色を見せてくれましたね」
今のはステージ上にいる三人の生徒によるパフォーマンスだったらしい。……どんな魔法を使ったのだか全く見当がつかない。
「……滝岡」
「ん?」
「今の、何なんだ?」
そう問うた俺に、滝岡は――今度は身を乗り出して――説明し始める。
「青宮先輩が最初に言っていた術式ってのが、空間制御術式――つまり結界魔法の事だ」
「結界魔法……」
「ああ。高度な空間認識能力、それに、術式に注ぎ込む魔力を安定して供給し続ける技術、大本になる豊富な魔力量が必要とされる絶技だよ……持ち場についていた生徒は、ありゃ保険用だったみたいだな」
よくそこまでわかるな、という言葉を飲み込み、先を促す。
「……その後は?」
「結界で囲まれた領域内では、許可された人だけが、つまりこの場合、代表生徒だけが魔法を使うことができる。勿論害意のある攻撃魔法なんかを使おうとしたら、空間の主である青宮先輩によって弾かれるけど」
んでな、と言って滝岡は続ける。
「最初に真黒く空間を塗りつぶしたのが、矢倉先輩の魔法」
「……いやあれ、結界で囲まれたから黒くなったんじゃないのかよ」
「いんや。結界が張られたのは青宮先輩の開始アナウンスの前。そこまでは外界と地続きの景色――つまり、会場内の景色まんまだっただろ。でもそれを矢倉先輩の魔法が塗りつぶした」
……確かにそうだった。
「次に星を空に浮かべたのが深澄先輩の魔法だな。これまた高い技術力が必要とされる繊細な魔法だった」
あの命の脈動さえ感じさせる星々の煌めきは――彼女が積み重ねてきた努力の輝きだったのだろうか。
「それで、桜浜さんが花を降らせた。色合いもまた綺麗だったよな……」
「そうだな……」
「そこから大樹の幹と枝を作ったのが矢倉先輩、葉を茂らせたのが深澄先輩、花を咲かせたのが桜浜さん」
興奮冷めやらぬ様子で滝岡はそう説明してくれた。
領域を区切り、その中で魔法を使う。空間全てをキャンバスにして描き出される絶景は確かに、学園の伝統にふさわしいものだった。
「……領域を作る、か」
「――――それでは、今年度の入学式はここまでです。クラス順に会場を出て、教室に移動してくださいね」
呟いた俺の声は、続くアナウンスの声にかき消され、誰にも届くことはなかった。
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