第35話 新店舗決定
「……失った肉体さえ戻す、ですと?」
「……ちょっと待ってハルヤ、なんでそんなこと分かるんだ? まさか、自分で怪我して効果を確かめたとか言わないよな!?」
「え、お、落ち着けラウ、違うから」
「違う?」
「そういうのが見える目を持ってるんだよ。持ってるっていうか、この世界にきたら見えるようになって」
「まさか、ギフトの鑑定眼か?」
「ハルの眼はかなりの鑑定力よ」
うふふ、と笑って補足するエリフィアと、その横で静かに頷くフロウディアと、きょとんとしている楓花以外は、驚いたたり頭を抱えたりとカオスだった。
「またレアなギフトだな。ポーション職人で、鑑定眼持ちか。確かに鑑定眼がなければレベル分けも出来ないな」
「いえ殿下、鑑定眼以上に、超級のポーションが」
「ああ、そうだったな。まず間違いなく、国宝級だ」
四肢がちぎれようとも絶命さえしていなければ復活する奇跡の薬。知れ渡れば、確実に騒動の元となる。
「貴族、商人、どれだけの大金をはたいても手に入れたいと願う者は多いでしょう」
「……トネリコ、ラタム、それからアキレアパーティの者達、このことも箝口令を敷く。他に漏らすことのないように」
「かしこまりました」
「それからハルヤ、君も、今後超級のことは誰にも言わないように。そうだな、今後弟子達でも超級まで作れそうな者が居たら説明は必要だろうが、そうでないなら上級までにしておいてくれ」
「あ、でもメアリとローマンはもう知ってる。一応、誰にも言わないようには言ってあるけど」
一緒に作業している時に出来て、情報を見て思わず声に出してしまったのだ。二人は絶句することはなく、悲鳴レベルの歓声を上げて驚き、さすがは師匠! と興奮していた。すでに尊敬度合いがすごい弟子達だ。
「うん、口止めをしたのはよかった。今後取る弟子には、の話だよ」
「りょーかい」
「あと、弟子達が中級まで作れるなら、この王都に店を出してはどうかな?」
「は?」
突然の話題変更に、陽哉は思わず固まった。先ほどまでの真剣な顔から一転、いつもの笑顔に戻ったラウルスは、決して冗談で言っているわけではないとすぐに分かる。
「……いずれは、って話だっただろうが」
「うん。けれど陽哉が鑑定眼を持っていて、ローマンとメリアがノーマルだとしても中級まで作ることが出来るなら、問題ないと思うんだ。もちろん作るのが三人なら量産っていう意味ではまだ足りないだろうが。それでも店を作って王宮に卸すという体勢は整えておいた方がいいと思ってね」
「今の場所じゃダメなの?」
「王宮に卸すのはいいだろうが、守護団のほうは組織自体に卸すよりも個人購入になるだろうからね」
「確かに、うちは組織とはいえかなり自由ですから、守護団で購入して配付はなかなか難しいから個別購入になるでしょう。そうなれば、支部の側に購入できる店があるのはかなりありがたいです」
「うーん、俺としてはもうちょっと研究して種類を増やしたいし安定させたいんだけど」
「それだって、店をやりながらでも出来るんじゃないかい?」
「……」
出来なくはない、というのは正直な所だった。元々、店を切り盛りしつつ新作を考えるのは日常茶飯事。職人としての感覚で、上級という高性能のものがあるのだからそれを売るべき、という意識だったが、中級どころか下級でも需要がありそうだとなると、メリアとローマンの作品であっても大丈夫なのだろう。
問題は陽哉自身のプライドというか意地である。職人たる者、品質がよくて美味しいものを。ただただ、そのこだわりが強かった。
(かといって、俺のこだわりの為だけに、誰かの命が失われる、というのもイヤだし)
これがただのショコラ、チョコレートであればこだわったってなんの問題もないのだが、この世界でのショコラはポーションなのだ。この世界にとっては、娯楽品ではなく必需品である。
(あーもー、だから俺はチョコが作りたいだけなんだけどなぁ)
ラウルスよりも、懇願するようなトネリコの視線が、痛かった。
「……わかった。この町に店を構えます」
「っ!ありがとうございます!」
「ありがとうハルヤ。じゃぁ早速、店の場所を決めないとね」
了承した瞬間、わっとその場が明るくなった。それだけ望まれているのだと、むず痒くなる。
「ラウ、元の工房はどうするんだ?」
「あのままでいいよ。守りはしっかりしているようだし、陽哉が好きに使ってかまわないさ。一人で研究したいときにでも使ってくれ。森までは距離があるが、ハルヤだけならば聖獣達の力を借りることもできるだろ」
「りょーかい」
「なら早速、店の候補地を見に行こうか!」
「……お前、どこまで先走って用意してるわけ?」
「店自体はまだ作ってないぞ?」
そんなこんなでシルヴァティカにて、陽哉は改めて店舗を持つことになった。
「ああ、そうだラウ、店の件を本格的に作るなら、その前に解決しておきたい問題が一つある」
「問題?」
「テオフルクの、安定的な入手だ」
今の所、陽哉達が使うテオフルクは完全に自然の恵みに頼っている。最初に見つけたあの場所は森の中でもテオフルクが群生している場所で、光の龍脈という特殊な場所にある植物だからなのか、あの木自体が特殊なのか、時期に関係なくいつでも実はなるらしい。それでも、今まで以上にショコラポーションを作るようになれば、確実に森の恵みだけでは足りなくなる。先のことも考えて、テオフルクを入手しなければならない。
「テオフルクは、光の龍脈の森にしか生らないと聞いているし、守護者のほとんどは森の中で採取してるんだろう?」
「ああ、そのことか。私もハルヤのポーションを知ってから、いろいろ調べてみたんだが……かなり身近に、解決法があった」
「身近?」
「王室御用達の商会の一つが、定期的に城へテオフルクを卸していてね。元々は森から採取していたようなんだか、どうも、それが最近変わったらしい」
「変わった?」
「諜報員の情報では、独自にテオフルクの栽培に成功したようなんだ」
「それは本当ですか殿下!」
「今まで栽培を試みた者は数多いても、どれも失敗していたテオフルクの栽培が、可能に?」
ラウルスの言葉に、驚きの声を上げたのは陽哉ではなく、トネリコたちだった。それほど、テオフルクが栽培出来ないというのは周知の事実だったらしい。
「ああ。かの商会は極秘でそれを行っていて、最近ますます安定してテオフルクを卸すようになったようだ」
「ラウルス、お前、極秘ってことはまさか」
「もちろんこれも箝口令だね」
「お前さぁ」
どんどん増えて行く箝口令に、もはや呆れるしかない。聞いたのは陽哉だが、そういう情報は周りを確認して言って欲しいものである。
それも、ラウルスがそれだけここにいる者達なら大丈夫だからと言われ、信頼されているとなれば無下にもできない。
「そういうことでしたら、商会とのパイプを繋ぐのが一番いいでしょうね。テオフルク入手と、トラブル回避という意味でも。その商会というのは、モルフォセカ商会ですよね?」
「ああ。そうだ。商会のオーナーであるモルフォセカ伯爵は今日この町の商会に来ているらしい。会ってみないかい? ハルヤ」
「……貴族かぁ」
「散々注意を促したあとにこういうのもなんだが、彼なら信頼出来るよ。王族派の中でも父や私への忠誠は厚い者だ。数代前に商人から叙爵して貴族にはなったが、貴族がオーナーだからと王室御用達になれる訳でもない。”流れ”を読む力は他の貴族や商人とは比べ物にならないし、商人だからこそ信頼関係は何よりも大切にしている。味方に付ければ、頼もしい存在だよ」
「……まぁ、ラウがそういうなら」
「決まりだね。先触れを出しておこう」
ラウルスはそういうと、スッと手を動かした。その時、視界の端にあった入り口辺りで黒い何かが動いた気がした。一瞬のことで気のせいかとも思ったが、フロウディアとエリフィアがそちらに視向けていたので、気のせいではないと分かる。
(今のが、ラウの”影”かな?)
頭を悩ませる事は多いのに、忍者のような存在を見てちょっとワクワクした陽哉だった。
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