第33話 暴露

「やったなフーカ!」

「おめでとうフーカちゃん」

「よかったな」

「みんなもありがとう!」


 トネリコの言葉に、わっとアキレア達から歓声が上がる。彼らに頭を撫でられて嬉しそうにする妹に、陽哉は深いため息を付いた。それに気づき、楓花が近づいてくる。


「お兄ちゃん、合格したよ!」

「おう、おめでとう楓花」

「じゃぁ!」

「まぁ合格しちゃったし、なんか楓花めっちゃ強いし……しょうがないか」

「ありがとぉ! 私がんばるね!」


 さすがに合格してまで反対することが出来ずに苦笑いしながら許可すれば、嬉しそうに抱きつく楓花。そんな彼らを微笑ましそうに見守るアキレア達に、ラタムが近づく。


「なんだ。兄貴が反対してたのか。それで付き添い試験とはな」

「まぁ、彼の場合は仕方がないのよ」

「は?」

「それは、私を呼んだ理由と関係あるかい?」

「ええ。あの二人のことなんだけど」


「私が頼んだんだよ」


 ベリスの言葉を遮ったのは、その場にいた者ではなかった。

 聞こえた方へ一斉に視線を向け、目を見開く。


「ラウ!」

「ラウルス殿下っ」


 そこにいたのは、キラッキラの笑顔のこの国の第一王子、ラウルスであった。




「やぁハルヤ、久しぶり」

「ああ。久しぶり、って言うほどじゃない気もするけど……なんでここに? 絶対にお前が来ていい所じゃないだろ」

「ベリス嬢にお願いしておいたのさ。君が王都に来ることがあれば知らせて欲しいって」

「守護団員を使うなよ」

「命令じゃなくてお願いだから。……森から出れたんだね」

「あぁ、こっちに定住することになったよ」

「うん。詳しくはあとで聞くよ」

「っていうか、アスターはどうした? お前の護衛でもあるんだろ?」

「仕事をしていたから置いてきた」

「おい! 王子がなにやってんだ!」

「大丈夫。ちゃんと書き置きも残してきたし、ここに入るまではずっと別人に見える認識阻害の魔法をかけていたからね。ついでに”影”も付いているし」

「影、ってのがなんだか分からないけど、護衛みたいなものか?」

「そうだよ」

「……ならまぁいいのか。でも後でアスターにあった時言ってやるからな」

「帰った時点で説教の予定だから、蒸し返すのは止めて欲しいんだけどな」

「やっぱり単独行動怒られるんじゃん!」

「あはは」


 ジト目で見てもラウルスはなんのその。にこやかに笑うだけである。

 そんな友人らしい気軽なやり取りに、腰を抜かしそうになっているのはトネリコ達だ。


「で、殿下」

「ああ、すまないね突然。久しぶりだね、トネリコ。変わりはないかい? ラタムも討伐の功績はいつも聞いているよ」

「殿下におかれましても、ご機嫌麗しく」

「殿下からお言葉を頂けるとは、恐縮でございます」

「今回は王子としてではなく、ハルヤの友人として来ているだけだから、堅苦しいのはいらないよ」

「ご友人、ですか?」

「ああ、ハルヤは私にとって、友人であり命の恩人だからね」

「おい待てこら、話を大きくするな!」

「事実だろう?」

「事実だろうと言わなくてもいいことだってあるだろーが」


 王子の友人にして命の恩人という言葉に、完全にトネリコ達のハルヤを見る目が変わった。そのことを注意してもラウルスは飄々とかわすだけだ。


「それよりハルヤ、ベリス嬢から妹君が一緒に来たと聞いたんだけれど」

「ああ、そういや紹介もしてなかったな。こいつが俺の妹の楓花」

「ふ、楓花です!」

「初めましてフウカ嬢。私はラウルス、君の兄君の友人だ。一応この国の王子なんだけど、ハルヤの妹である君はそんなこと気にしなくていいよ。よろしくね」

「ほ、本当に王子様っ、よ、よろしくお願いしますっ」


 王子様スマイルを向けられて普通なら卒倒しそうなものだが、兄もイケメンの部類に入るし、なにより幼少期から極上のイケメンである兄の幼馴染みと接している楓花には免疫があったらしい。それでも小声で格好いいと呟いているのを聞いて兄としては複雑な気持ちになる陽哉だった。


「それでハルヤ、そちらの二人は?」


 ラウルスが楓花から視線を移したのは、そばにいたフロウディアとエリフィアだ。


「え? ああ、お前この姿で会うのは初めてか。フロウディアとエリフィアだよ」

「おい馬鹿ハルっ」

「へ?」


 人型の二人を教えれば、フロウディアから小さく𠮟責が飛ぶ。今ここで二人の名を教えることがどういう事になるのか。


「……フロウディア様に、エリフィア様?」


 思わず唖然と呟くラウルスの言葉は、その部屋にいる人間に聞こえていた。つまり、何も知らないトネリコとラタムの耳にも、届いていた。

 この国で最も尊き存在である王族であるラウルスが、敬称をつけて敬う相手、なんてもの、そうそういるはずがないのだ。


「……」

「……」


 二人の視線が痛いくらいで、陽哉は自分で自分の首を絞めるミスをしたのだと、理解した。




「し、神獣……まさか、生きている間に、お目にかかることが出来るなんて」

「……え、これ俺知ってしまっていいことなんですか、支部長はともかく俺一介の守護団員なんですけど」


 どこぞの王族、と誤魔化すことも出来たが、それはそれで後から問題になりそうなので、結局トネリコたちにもフロウディアとエリフィアの正体が神獣であると暴露した。

 

「もちろん、このことは箝口令を出させて貰うよ」

「は、はい、もちろん、誓って、この胸に秘めさせていただきます」

「同じく、誰にも話さないと誓わせていただきます」


 さらっと箝口令という普段生活していて聞かない言葉を出すラウルスに、こういう所が王子らしいなと感心する。同時に安心したのもつかの間。


「あとついでに、陽哉達は異世界人だから、そのことも一緒にね」

「ラウルスー!!」


 ついでなんかで軽く言ってはいけないはずの単語を、箝口令と同じくさらっと笑顔で暴露するラウルスに陽哉が叫ぶのも無理はなかった。


「ラウ! お前、それ言う!? なんなのお前本当に王子なの!?」

「失礼だなハルヤ、王子だよ?」

「お前みたいに口が軽い王子がいてたまるか!」


 突っ込む陽哉と、笑うラウルス。自国の王子の言動に苦笑いするしかないベリス達。フロウディアは呆れたようにため息を付き、エリフィアは苦笑い。そして混乱するトネリコとラタム。その場の空気は完全にカオスだ。


「……い、今なんと?」

「な、な、え、いせ、異世界人っ!?」


 二人の反応は、アキレア達が知った時と同じだった。


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