ショコラティエの異世界ミッション～異世界で作ったチョコは奇跡のポーションでした～

第23話 初代クルス国王

困ったように微笑むラウルスは、王子様だった。

「おまっ、だって、騎士団って！」

「騎士団所属は間違ってないよ。この国の王族と貴族は、跡取りが一人しかいないといった特例を除いて、騎士団や王国直属の研究所に所属して民を守るのが国の上に立つ者として当たり前のことなんだ。王子も例外じゃないからね。代々王子は騎士団の一部隊を受け持つのが慣例なのさ」

「王子があんな大怪我っ！」

「いやほんとあれは僕の油断が招いたことで、力不足だったよ。周りからも叱られた。騎士団に所属している以上命を落とす覚悟も生き残る決意もしている。だからこそハルヤには感謝しているんだ」

「……」

「ごめんねハルヤ。騙すつもりはなかったんだよ。ただ君には王子としてじゃなく、友人として接して欲しくてね」

「……滅相もないです王子様」

「やめてくれ！ お願いだから今まで通り接してくれ！」

「無理です王子様」

「お願いだよハルヤ！ ラウって呼んでくれ！」

　ハルヤ－！と懇願するラウルスの勢いに押され、結局ハルヤは彼の願い通りに接することになった。今更かしこまって接するのもなかなか難しいし、本人がここまで懇願しているのを無下にも出来なかった。

「はぁ、心臓に悪い。これ俺あとから不敬罪とかで処刑されないよな？」

「僕の友人にそんなことするはずないだろう。ましてや命の恩人だよ？ 感謝こそすれ処刑なんてとんでもない！」

「はぁ。……ラウが王子ってことは、アスターは……」

「俺はこいつの幼馴染みで護衛兼側近。オーツ侯爵家の次男だ。すまんな、黙っていて」

　まさかの侯爵家。

王子にあそこまで遠慮がない側近なんてあり得るのだろうか。そう考えたが、正式な場ではキチンと部下として接しているのだろう。けれど、この気の置けない関係性があったから、ラウルスが王子だなんてちっとも考えたりしなかった陽哉である。王子様みたいなイケメンだな、とは思ったが。本当に王子だなんてボロボロだったラウルスを見て誰が思うのか。

　そして、陽哉以上に驚いているのが後ろにいる五人。

「お、王子様？ ど、どうすれば」

「ハルヤさん、え、王子様のご友人!？」

「あばばばばばば」

「ちょっとアキ、しっかりしてちょうだい！　リーダーでしょう！」

「む、むりぃ」

「これ、俺達ここにいていいのか？」

　大混乱である。それも仕方がない事だった。こんな森の中で王族と遭遇なんてそうそうあることではない。

「とりあえず、こんなところに突っ立ってないで中に入ったらどうだ？」

「……そうだね」

　一気に疲れた陽哉は、フロウディアの提案に頷いて、なんとか彼らを落ち着かせて建物内に入れるのだった。

　リビングのような部屋の大きなソファの一角に陽哉、ラウルスとアスターが座る。陽哉の膝の上と肩の上にはエリフィアとフロウディアが当たり前のように陣取っていた。

「みなさんもどうぞ」

「とんでもございません！ 王族の方とご一緒するなどっ」

「ここには王子としてではなく、ハルヤの友人のラウルスとして来ているからね。無礼講だ。遠慮せず腰掛けてくれ」

「そ、そうは言われましても」

「いいから」

　にっこりと有無を言わさず微笑まれ、五人はぎこちない動作で言われるままにソファに座った。緊張でかちこちに固まっている。メリアやローマンなんて泣きそうなレベルだ。

　陽哉だって、よく知らない世界のまったく知らない王子だと暴露されて緊張より驚きが勝っているが、自分の世界の知っている皇族とか王族とかを前にしたら同じようになるだろう。

　そこまで考えてふと思った。

（……ちょっと待て、俺ついさっき、王族には見つからないように、って思って）

　随分と早いフラグ回収であった。

「ラウ」

「なんだい？」

「異世界人」

「！」

　ピクリ、と反応した王子様に、一国の王子がそんなに簡単に顔に出して大丈夫なのかと心配になる。気を許してくれているからだと思いたい。

　その反応で、ラウルスが気付いていることは明白だった。

「お前が王子ってことは、気付いてたんだな、俺が異世界人だって」

「……誰に聞いたんだい？」

「……ベリスさん」

　突然名前を呼ばれ、陽哉と王子様の視線を受けた彼女は姿勢を正し、頭を下げた。

「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。お初にお目にかかります、ラウルス殿下。私、ベリス・アリマと申します。アリマ家の三女です」

「君がアリマ家のベリス嬢か！ 話は聞いているよ。兄君の件はなんと言ったらいいか。君が居てくれたことはアリマ家にとっても我が国にとっても本当に幸福だった。兄君は気の毒だろうが」

（え、なにそれベリィさんも凄い人なの!？）

「研究一筋で対人関係をおろそかにしていた兄の自業自得ですし、良い勉強になったでしょう。一時は落ち込んでおりましたが、今は前向きに仕事に励んでおります」

「それはよかった。聞けばベリス嬢も優秀な守護者だとか。国民を守ってくれて感謝するよ」

「勿体ないお言葉ですわ、ラウルス殿下。ああ、こちらも紹介が遅れ申し訳ございません。彼らが、私の所属しているパーティのアキレア、ヘンビット、メリア、ローマンです」

　ベリスの紹介に、慌てて全員が頭を下げる。その様子からも、彼らの中で一番権力に慣れているのがベリスだと分かった。

「ちょっと待って、ベリスさんはいったい」

「ごめんなさいハルヤ、ちゃんと言ってなかったわね。私の家のアリマは、元をたどると転移者の祖先の姓なの」

「へ？」

「つまり、ハルヤのような転移者の子孫ね。転移者の祖先はカズヒト・アリマというの」

「は!？ カズヒト！？ アリマって、まさか有馬か!？」

　かずひと、なんてまんま日本人の名だ。そして昔のクラスメイトにいた苗字を思い出し、思わず叫んでしまった。

「……そういえば、さっき王族が保護とかで驚いて流しちゃったけど、転移者の子孫なら知ってるって、言ってたっけ」

　思い返せば、ベリスは神獣と異世界人の関係を知っているのは転移者の子孫や王族貴族と言っていた。王族の保護という話に意識がいっていたが、ベリスが王族貴族でないなら、転移者の子孫やその関係者でなければおかしいのだ。

「……なんかもう、いろいろ驚きすぎて疲れた」

「ごめんなさいね」

「アリマ家のベリス嬢なら、神獣と異世界人の関係を知っているのも当然か」

　アスターの言葉にラウルスが苦笑いする。

「まさか、こんな森の中で、関係性を知る人間とハルヤがこうも早く出会うと思わなかったよ」

　その言葉に、疑問を感じた。王族は異世界人を保護するという。それなのに、ラウルスは強引に陽哉を連れて行こうとも、それらしい話をすることもなかった。

「ラウ、ベリスさんに聞いたんだけど、この国の王族って異世界人のことを保護するって」

「ああ、それも聞いたんだね。確かに、我が国では異世界からの訪問者が来た場合できる限り保護することにしている。理由は、その異世界人にこの世界の発展に力を貸して欲しいから、というものもあるが、この国の初代からの命でもあるんだ」

「命？」

「自分と同じような異世界からの訪問者がいたら、できる限り保護するように。そう、初代は子孫に命じたのさ」

　自分と同じ、異世界からの訪問者。

「は!？ ってことはまさか！」

「改めて、僕の名はラウルス・レン・クルス。このクルス国の第一王子だ。王族貴族は代々祖先の誰かの名の一部を貰うという慣習から、ミドルネームのレンを、初代国王、レンヤ・クルス王から一部頂いている。瞳の色が初代と同じらしくてね」

「レンヤ・クルス？ クルス・レンヤ、って来栖か!？」

　来栖、または、来須など。レンヤ、なんて漢字でいくらでも表現出来る。

　アリマに続きの日本人の名に、陽哉の開いた口が塞がらなかった。