第21話 神獣との関係
「いや、あのっ」
いきなりの異世界人という爆弾のような指摘に、陽哉は思わず挙動不審になってしまう。なんと返していいか分からず視線を彷徨わせていると、パタパタという羽音と肩への軽い衝撃、見れば、そこが定位置になりつつあるフロウディアがそこに居た。
(あ、呆れてるぅ)
鳥なのによく分かる彼の視線に、仕方がないじゃないかと反論したかった。異世界からきたとこうもあっさり見抜かれるなんて予想外である。
「……仕方がないか」
「ふ、フロウディアさん?」
「この世界じゃ子供でも知ってるんだよ。守護団のパーティ事情は。なんせ、憧れる者が多いからな」
「……なるほど、それで」
ちょっとした疑問が常識だったらしい。けれどそれだけで断言出来るのだろうか? もっと徹底的なミスをしたのでは? と恐る恐るベリスに視線を向けると、彼女は陽哉の心情を察したのか、にっこりと笑う。
「それもあるけど、一番の決め手はフロウディア様とエリフィア様がそばにいることよ。これは誰もが知る訳じゃないけれど……、過去現れた異世界人の多くは、そばに神獣がいたらしいわ」
それは、つまり。
「……俺のせいじゃないじゃん!」
「だから言っただろう。仕方がないと」
この世界の異世界人事情は軽くしか聞いていない。多くはないが、召喚、事故、転生などで知られているだけでも両手以上の人数がいるらしいとは聞いていたが、その内容までは聞いていないのだから、神獣云々なども初めて知った。つまり、異世界人である陽哉のそばに神獣であるフロウディアとエリフィアがいるのも、やはり理由があるわけで。
「……やっぱりチョコだけの為じゃないんだな?」
陽哉のつくるショコラポーション目的だと言っていたのは、嘘だったのだろうか? 言葉の裏に滲み出ていた陽哉の疑問を見抜いたフロウディアがため息を一つ。
「嘘じゃない。お前の作るショコラの為なのは間違いないさ。お前のそれは、この世界を変える可能性をもつ。……そんな異世界人の持つ知識をこの世界のために使えればと考えた創造神が、俺達神獣を転移や転生してきた異世界人へ護衛として付けるんだ」
「つまり、この世界の神様からの指示、ってこと?」
「……そうなるな」
ファンタジーでよくある神様からのフォローが、実はフロウディア達。それを聞いて陽哉は納得した。初めて会ったのはフロウディアで、フロウディアが居ないときはエリフィア。いつでも二匹が側にいてくれるから、陽哉は最初の感染獣への遭遇からずっと守られている。
陽哉自身も周りの反応で薄々自覚していたが、己の作るショコラポーションはこの世界にとって一種の改革といっても良いほどの奇跡の品だった。もしかしたら、最初は様子見だったけれど、ショコラポーションを作り出したことで保護の対象となったのかもしれないと、自分のショコラティエの技術とこの世界で得た神眼という特殊能力に感謝する。それがなかったら、最悪フロウディア達の守護はなかったかもしれないと考え、今までの危機を思い浮かべて身を震わせた。
そんな陽哉を、唖然と見つめる者が四人。
「え、えぇ? 本当に、異世界人なんですか!?」
「ベリス! 本当なのか!?」
「ここ数十年、転移や転生者は発見されていないと聞くが……」
「そんな人に助けられていたなんてっ、なんて幸運!」
ベリス以外の四人は、異世界人という単語に驚愕していた。ベリスの言うように、異世界人と神獣の関係を知るのは一部の者らしい。
「ベリィさん、転移者や転生者に神獣が付いているって知っているのは、少ないんですか?」
「ええ。先祖に転移者・転生者が居た家系には伝わっているわ。あとは一部の貴族、そして王族ね。国によるけども、この国の王族は転移者・転生者は保護する方針よ」
「まじですか」
(……保護して貰ったほうがいいのか? いや、でもそうなったら面倒なことになりそう。保護という名の軟禁監禁もありえる)
とりあえず王族などに見つからないように森の中で大人しくしてよう。陽哉は心の中で決意した。
「ええっと、確かに、俺は転移者です。でも、完全に転移している訳じゃないので、王族の方には報告しないで欲しいんですけど。あとやっぱり弟子は取れません」
「完全に転移してない?」
「いや、俺もよく分からないんですけど、むこうとこっちを行ったり来たりしてるんですよ」
「初めて聞いたわ。そんな転移もあるのね。わかったわ。恩人であるハルヤが望むのなら王族には伝えないから」
ベリスも、二つの世界を行き来する転移者は聞いたことがないという。やはり陽哉は特殊な例なのだろう。
(扉が開きっぱなしだから行ったり来たりしてしまう、ってフロウは言ってたけど……、あとでもう一度フロウ達に確認しよう)
フロウディア達は、神の使いというやつなのだ。聞いてから数回転移しているし、もしかしたら何か状況が変わっているかもしれない。あとでもう一度聞こうと頭の隅においておく。
「今のところ、こっちにいつ来れるのかも分からないし、突然来なくなる可能性だってあるし、この森から出れないし。そんな状態で弟子なんて無理です。作り方を教えるくらいなら出来るけど、本格的に弟子って形はあまりにも無責任すぎる」
「っ! それでもいいです! お願いします! 私達を弟子にしてください!」
「いや、だからそれは」
「お願いします!」
「もしかしたら来なくなるかもしれないならなおさらです!」
「作り方教えるだけじゃダメ?」
「弟子がいいんですぅぅぅ!!」
二人は、もう泣きそうな勢いで懇願してきた。何がそこまで二人をかき立てるのか、二人自身すら、分かっていなかった。それでも彼らは、何が何でも目の前の職人へ教えを乞わなければいけない、その想いだけが、心を占めていた。
陽哉とて、ここまで懇願してくれるのは嬉しい。できる限り教えてあげたい、という気持ちがあるが、弟子とするには時間以外にも問題がある。
「弟子って言っても、給料あげられないんですけど」
なにせ異世界人。この世界のお金などないのだ。
転移云々ももちろんだが、弟子となるとその問題も発生する。弟子となれば仕事を手伝いながら教える為、低くても給料があったり、給料はないが住み込みで生活費を出すなど、完全に教えるだけで無給というのもあるだろうが、陽哉のイメージの弟子はある程度の給料が発生する、というものだった。
実際、陽哉自身も父とは別に海外の有名ショコラティエに教えを乞いに行ったが、仕事をしながらの師事だったので、ある程度の給料はあった。教わる側がお金を払う教室や学校とはまた違ってくる。
「そんなものいりません!」
「いやそれ無理があるんじゃ」
陽哉がいつくるか分からない以上、いつでもこの森にいる必要が出てくる。守護団の仕事の実態はよく分からないが、話を聞く限り一つの所にずっと留まる、というのはあまりなさそうだ。そうなると、守護団の仕事をしながら、というのは難しい、というか何か仕事をしながら、というのが難しい。そんな状態で無給。貯蓄などにもよるだろうが、明らかに無謀である。
その問題を解消したのは、ベリスの一言。
「なら、二人の生活費は私が出すわ。あとハルヤにお礼も」
「は?」
「えぇ!?」
「ベリィさん!?」
にっこりと笑うベリスの豪快な言葉に驚いたのは陽哉だけではない。当の二人も驚きの声をあげるのだった。
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