第20話 弟子志願


「取り乱してごめんなさい。助けて貰ったのに自己紹介もせずに……改めて、私はベリス、ベリィって呼ばれているわ」

「俺はアキレア。よければアキと呼んでくれ。一応、このチームのリーダーだ」

「俺はヘンビットだ」

「メ、メリアです!」

「ローマンといいます」


 なんとか落ち着いてくれた五人は改めて名を名乗る。聞けば、陽哉の予想通り国境なき守護団のメンバーだった。

 ベリスはオレンジがかった金の髪の美女で魔法使いらしく長い杖を持っている。アキレアは深い赤色の短髪のイケメンで、大ぶりの剣を持っていた。ヘンビットは紫がかった黒髪の優しげな男。そしてメリアと名乗った女は小柄で可愛らしい子で、ローマンは少し自信なさげなひょろっとした青年だった。


「それにしても、これがあのテオフルクの種子から出来ているとは……」

「種にそんな効果があるなんて初めて知ったわ」

「まぁ、今は試行錯誤しているところですけど」

「それでも、これはこの世界にとって画期的なモノよ」

「ああ、市場に出回っているポーションの100倍近い価値になるかもしれない」

「あー、そう、でしょうか」

「もっと自覚してください! 本当に、これはすごいことなんですよ!?」


 この世界の元のポーションの価値が分からない陽哉からすれば曖昧な返事しかできない。すごいことだと力説されても苦笑いしかできなかった。

 そんな陽哉を、じっと、キラキラとした瞳を向けるものが二人。


「あ、あの!」

「はい?」


 先に声を上げたのは、メリアという、あの重症をおっていた女だった。彼女は陽哉にかけた声の勢いのままその手を握り。


「わ、私を弟子にしてください!」

「弟子!?」


 陽哉にとっては爆弾発言をかましたのだった。


「い、いや、弟子って」

「俺もお願いします! 是非弟子にしてください!」


 困惑する陽哉にさらなる追い打ちをかけたのはローマンだった。メリアの隣で目をキラキラとさせて見てくる彼に、思わず腰が引ける。


「君も!? ちょ、ちょっと待って、君達国境なき守護団なんですよね!?」

「そうですけど、ずっと、迷ってて。けどハルヤさんのポーションで回復して感動しました! 私もハルヤさんのような、人を救えるポーションが作りたいんです!」

「俺もです、是非弟子にしてください!」

「イヤイヤ、そんな、だいたい、すぐに転職なんて、あ、アキレアさん達もなにか言ってください」


 二人に勢いよく迫られ、陽哉は困惑しながらアキレア達に視線を向けた。同じメンバーだと言うし、仲間が唐突な転職なんて止めるだろうと思っていたのだが。


「いいと思うぞ!」

「そうね。二人がそれを望むのなら、ありだわ」


 帰って来たのはまさかの二人への援護射撃だった。


「は!? え!? 仲間なんですよね!?」

「そうなんだけど、二人はこのまま守護団にいるか迷ってたし、目標が見つかったならそれを応援したいわ」

「えぇ?」

「元々、私達はアキレアとヘンビットと私の三人パーティでね。二人は最近声をかけて仲間になったの。その前は……」

 

 ベリスが言いよどみ、視線をメリアに移したことで、彼女が頷き、ハルヤの手を離して続きを話し出す。


「私は、家から出て仕事を探していた時に、盗賊に捕まりそうになって、そこをベリィさん達に助けて貰って、そのまま仲間に入れて貰ったんです。幸い、魔法は使えたので、守護団の試験は通過できて。けど、思うように動けなくて、本当にこれでいいのか、ずっとベリィさんに相談していたんです。子供の頃から薬師に憧れていたのもあって、ハルヤさんのポーションを食べて、これが作りたいって、思って! あんな、“おいしくてすごい”ポーションが作りたいんです!」

「そ、そう」


 盗賊に捕まりそうになったとか、さらっとすごいことを言われたが、本人はそのことを気にしていないのか、盗賊云々よりもポーションへの熱量がすごい。

 熱烈な言葉に、思わず照れ、キラキラした瞳から逃れたくて視線を逸らすと、ローマンと目が合った。


「ええっと、ローマン、だっけ? 君は……」

「元々、俺は別のパーティに所属していました。けれど、そこをクビになったんです」

「クビ?」

「使えないから、と」

「いやごめん、その前に守護団って、パーティとか自由に組むもんなの?」

 

 陽哉のイメージでは、団体である以上、ある程度は会社の部署のように上からの指示による組分けがあるものだと思っていたのだ。けれど話を聞く限り、どちらかと言えばファンタジー小説によくある冒険者パーティと同じ感じである。


「……基本的には自由よ。それぞれ、二・三人から十数人でパーティを組んでいるわ。パーティに直接指示が下ることもあるけど、基本的にはどこそこの偵察や巡回、護衛、そんな風に割り振られた任務を自分達で選んで受ける形ね。そして良い功績を挙げると、上から専属の声がかかるの」

「専属?」

「ええ。大地の守護者と天空の守護者。この二つだけは上が決めた精鋭の集まりでね。守護団に属するものの多くはこの二つのパーティに所属したくて功績を争っている形ね」

「まぁ、俺らはあんまり興味ないんだけどなー」


 アキレアの気の抜けた言葉で、彼らが守護団の中でも少し特殊なパーティであるとわかった。そんなパーティに、ローマンは拾われた形だという。


「その功績をあげるためにも、俺は役に立たないからクビだと追い出されまして。次のパーティを探していたときに、アキレア達に拾って貰ったんです。パーティから追放された団員は、なかなか次の所属が決まらないので、本当に感謝しています」


 どんな理由であれ、追放者というレッテルはその団員に貼られる。アキレア達のように理由もその団員の力も理解して迎え入れてくれるパーティもあるが、多くののパーティではそのレッテルの貼られた団員はなかなか受け入れられないものらしい。ソロという選択肢もあるし、実際にどのパーティにも所属しない団員はいるが、よほどの実力者でないかぎりそれで続けていくのは難しいのだという。


「まぁ、仕方がないんですけどね。俺、本当に戦力にはならないし」

「なに言っているのよローマン。あなたの支援力は確かだわ」

「そうだぞ! よく気が回るしな!」

「自分を卑下することはないよ」

「あ、ありがとう」

「そうだよ! ローマン君! 私よりも役に立ってるよ!」

「メリアのほうが戦力になってるよ」

「メリアも、もっと自信を持って、あなただってちゃんと力になっていたわ」


 なかなかいい関係を築けているらしい。だからこそ、陽哉はそんな彼らがパーティを抜けることを後押しするのが不思議でならなかった。


「いや、ならなおさら、せっかく新しいパーティに所属できたのに」

「元々、俺は誰かを助ける仕事がしたくて、幼い頃から憧れていた守護団に入りました。けれど、入ってみて、守護団の殉職率も知って……どうにか出来ないかと、ずっと思っていて、治癒魔法も勉強したんですけど習得出来なくて……。でもハルヤさんのポーションなら、もっと守護団のメンバーを救えると思ったんです!」

「いや、その気持ちはすごいと思うんだけどね」


 志はとても素晴らしく感じるし、出来ることなら応援したいが、自分の弟子という道は応援できない。


「弟子にしてください!」

「いや俺、弟子は取ってないんだけど…」


 なにせ異世界人である。この世界で店を出しているわけでもないのだ。ショコラポーションの作り方を教える、という点では、むしろ教えておきたいと思っていたから嬉しいが、本格的な弟子となると話が変わる。


「ハルヤ、私からもお願いできないかしら。まだ試行錯誤しているポーションを教えろなんて、虫がいい話をしているのは理解しているわ。けど、二人は、ハルヤの力にもなると思うの」

「俺の?」


べリスはにっこりと微笑んで、陽哉に告げた。



「ええ。……ハルヤ、あなた、異世界人よね?」

「へ!? 」


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