友情交換日記〜三人の勇者〜

月影

第1回 名前

---いつだか分からない時代の、どこだか分からない場所でのお話。


♢♦︎♦︎♢


目の前が薄暗かった。目を開けようとしても開かない。

少しだけ開けてみると、目の前が真っ白になる。

もう朝なのだろうか?

眩しくて、顔全体が歪んでしまう。


「-----い」


誰かの声が響く。


「-----お--い」


また響く。


「-----おーい、おーい!」


誰かが……俺のことを呼んでいる?

一体誰だろう?でも、目が開かない。


「-----あ」


ようやく開いた。目の前には逆さになっている男がいる。


「気付いた?大丈夫?」


「あ……うん。えっと、俺、死んでないの……?」


すると、男はおかしそうに首を傾げた。


「何言ってるの?君大丈夫?何があったの?」


いっぺんに聞かれても分からないに決まってる。

大体此処は何処だ……?


「大丈……夫。此処……は何処?」


全然大丈夫じゃなさそうな声を出してしまう。

改めて生きている感触を感じてみると、喉がカラカラだ。

これじゃああまり長い時間喋れそうにない。


「とにかく君立ってよ。僕、もう首が疲れたよ」


「ご、ごめん……」


俺は何とかフラつきながらも立てた。

体中が痛い。長い時間ずっと此処で寝ていたのだろうか?


「何でこんな所に倒れてるの?」


「……えっと、俺--」


何かを思い出しそうなのだが、頭が痛くて思い出せない。

俺だって分からない事がいっぱいだ。

此処は何処だ?コイツは誰だ?何で俺は此処にいる?

そして一番分からないのはこれだ。

俺は一体、誰なんだ?


「俺は--誰……なんだ?」


「え?君……分からないの?何もかも?」


「うん…、多分」


本当に分からなかった。頭が痛いからなのか……?


「もしかして記憶喪失?」


「多分……いや、分からない……」


「え?どういうこと?」


「思い出せそうだけど……思い出せないの」


何かが俺の頭の中に浮かんできそうだった。

俺が誰なのか、何で俺は此処にいるのか--。

気が付けば、男が不思議そうな顔……もしくは嫌な顔をして、俺をずっと見ていた。

困らせてしまったのか……?


「あ----ご、ごめん」


「? 大丈夫だけど……君さ、少し休んだ方がいいよ。そしたら色々思い出せるかもよ?」


「そう……だね」


俺は今疲れているのかもしれない。

もう少し眠ったら、きっと今までの事とかも思い出せるだろう。


「あ!じゃあ、僕の家に来る?」


「君の……家に?」


「うん!ベッドで寝た方が良いし、このまま僕、ほっとけないよ」


「あ、ありがとう」


♢♦︎♦︎♢


目が覚めたら、俺は木で出来ている立派な家にいた。

喉が治っている。頭も痛くなかった。

起き上がってみると、俺の隣にはあの男がいた。


「あ、起きた?大丈夫?」


「あ、うん」


口が良く動く。俺は完全回復した様だ。


「さっきはありがとう」


「うん。君、頭回る?」


「うん……前よりはマシ」


何となく寝起きでクラクラしているが、きちんと考える事はできている。


「じゃあさ、まずは君の名前、思い出せる?」


「俺の……名前--」


薄っすらと記憶が戻ってくる。

今まで、俺は---。

考えてると男が何か「あっ」と声を出して、パンと手を叩いて言った。


「人に名前を聞く時は、まずは自分からだったね。僕の名前はケトル!よろしくね」


「あ、うん。よろしく……」


「じゃ、君の名前は?」


俺は記憶を探った。

俺は一体誰だ?何をしていた?

その疑問の答えがどんどん出てくる。


「俺の、名前は--」


息を吸って、笑顔を作り、言う。


「ゼル……--です」

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