おあげと天ぷらの魔法
樹 慧一
第1話:お姉ちゃんは魔法使い
「緑のたぬきの天ぷら、おいしくて大好きなんだけどね。えっとね、きつねのお揚げも……」
「食べたく、なっちゃった? 」
「……うん」
小さい頃、2つあるうちの1つを選ぶと、残りの1つも試してみたくなったとよくわがままを言っていた私。
そんな私の願いを叶えてくれるのは、いつだってお姉ちゃんでしたね。
「だったらこうしようよ、ほら!
「あれ、お姉ちゃんのお揚げ! 」
「私の赤いきつねのと半分こしたら、どっちも食べられるよ! 」
「すごい!魔法みたい!じゃあ、私の天ぷらはんぶんどうぞ! 」
「ありがとう!豪華だねー! 」
「ねー! 」
そうして会話したことを、貴女は覚えて居るでしょうか。
まだ自分も大人には程遠いだろう貴女が、いっしょうけんめいポットでお湯を沸かしてふたりぶんのおうどんとおそばを作ってくれていたのを、昨日のように思い出します。
あの時食べた魔法のおそば、本当に美味しかった。寒い中、ふたりで机に並んでふうふうと湯気を吹いて。まだ小さかった私には、ふたつの具が誇らしげに乗ったおそばがそれはもうキラキラして見えたものです。
今は私も大きくなり、結婚して子供を持つ親になりました。今はまだ幼いこの子は、貴女によく似た可愛い女の子です。
いつか、この子がひとりでおうどんを、おそばをひとつ食べられるようになったなら。食べるとき、幼い頃の私みたいにもうひとつも欲しそうにしていたなら。
貴女のようにこの子を笑顔にできる魔法を使ってみたい、貴女のようにキラキラした魔法を使える魔法使いになりたい。近頃一層そう思うのです。
貴女は今、何をしていますか。元気に、していますか。とてもとても、逢いたいです。
いつか逢えたその時は、またふたりでおそばを半分こしようね。
今度は、きっと私が作ります。
またふたり並んで、ふうふうと湯気を吹いて。熱いね、なんて笑いながら。そうして一緒に、貴女と食事がしたいです。
大好きな、たった一人のお姉ちゃんへ。貴女の妹より、愛を込めて。
おあげと天ぷらの魔法 樹 慧一 @keiichi_itsuki
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