第2話

 そもそも、寒空の下を歩いてコンビニに行くことになった事の発端は、数十分前の桜良の一言だ。



「稜くん、稜くん。私、年越し蕎麦食べたい」



 二人でこたつでのんびりしていたはずなのに、何の前触れもなく突然のことだった。


 やけに真剣な表情だったもんだから何事かと思ったけど、拍子抜けだ。


 家にはそうめん以外に麺類はなく、面倒だからそうめんで妥協してもらおうと思ったけど無理だった。


 蕎麦を買ってなかったのに、突然食べたいと言い出して、どれほど年越し蕎麦を食べたいのかを熱弁された。


 多分ネットの記事とかに影響されたんだと思う。多分。


 最終的に桜良の食べたい気持ちに負けて、近くのコンビニまで買いに行くことになったのだ。





 コンビニに着くと、桜良は繋いでいた手を放して颯爽と店内の中へと紛れていった。


 その後ろをついていこうと思った矢先にふと、視界に入ってしった。


 白い苺大福が。


 苺大福に誘惑されて、フラッと甘いものコーナーに近寄って動けなくなる。


 この苺大福はただの苺大福じゃないらしい。中にホイップクリームがいっぱいに入っているようだ。


 しかも二つ入り。桜良と二人で一個ずつ食べられる。


 買うか、買わないか。


 悩みつつも手を伸ばしかけた時、横からちょこちょこと桜良がカゴを持って近づいてきた。


「ねっねっ、これにしよ?」


 そう言ってカゴの中を見せられる。すると中には乾麺ではなく、CMでよく見かける緑色のパッケージの物が入っていた。


「緑のたぬき食べよっ」


「いいけど、乾麺じゃなくていいの? 乾麺だったらまた食べたくなってもすぐ食べれるよ」


「緑のたぬきがいいの! 乾麺だと私上手にできないし、年越し蕎麦を食べたいだけだもん」


「それもそうか」


 たしかに、年越し蕎麦だから食べたいだけであって、普段食べたいわけじゃない。それなら余って食べずに無駄にしてしまうより、インスタントの方がいい。


「じゃあ買いに行こうか」


 踵を返してレジへと向かおうとすると、えっと声がする。


「苺大福買わないの? 食べたいんじゃないの?」


「えっと……まあ、食べたいけど絶対ってわけじゃないし……」


「ふーん……稜くんが食べたそうだし、私も食べたいから入れちゃおーっと」


 丁寧に苺大福を持って、カゴの中へと入れる。


「ありがとう」


 ふふっと桜良は笑って、後ろの棚の方へと移動して消えていった。

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