些細な日常の幸せ

夏谷奈沙

第1話

「あー、外さむい……」


 小さく呟きながら僕に顔をすりつけてくる。


「そんな薄着で出てくるからだよ」


「むう……だって、コンビニまですぐだと思ったんだもん」


 桜良は寝巻きのジャージに、コートを羽織っただけの格好でいた。


 もう12月が終わろうとしているのだから、そんな格好はどう考えても寒い。


 もう夜も深まり始めているのだから尚更だ。


「稜くーん、もう帰ろう?」


「いやいや、言い出しっぺ桜良だからね? もうすぐで着くんだから帰らないよ?」


「えぇ、だって寒い……こんなんじゃ年越しちゃう……こたつでぬくぬくしたい……」


「大丈夫、大丈夫。まだ23時だから年越しまであと1時間もあるよ。行って帰っても30分もあるから安心しな」


 今から帰れないと悟った桜良は、むくれながら震える身体を出来るだけくっつけて、寒いと主張してくる。


 言葉では無理ならば、という対抗心なのだろうが、もう数分で着くのだからこちらも引かない。 


「けち……」


 そう言いながらもくっついてくるのが可愛いく思えて仕方がない。


 本人は寒さを訴えたいだけで、なんの下心もないからこっちの気持ちなんか気づきもしない。


 思わずため息がでてしまう。 


「冬なめすぎ」


 巻いていたマフラーを、桜良に巻き直し、デコピンをお見舞いする。


 痛っと鳴いた桜良を2、3歩置いていくと、ちょこちょこと着いてきた。


 そして手を繋いでふふっと笑う。


 僕の妻は可愛い。

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