2.なんで?


入学式を終えた私達は一旦それぞれの教室へと移動した。

私達1年生の教室は中央棟の4階。

もちろん生徒用のエレベーターなんてものはない。

これからは毎日4階まで登り降りすることになると思うと憂鬱だ。。。


これから1年間お世話になる1年A組の教室。

席はまだ決まってないので、同じ川野中の顔見知りと話し窓際の席に座った。

春の風は心地よく、高校近辺に高い建物があまりないので眺めも良い。

あ、うちの屋根もちょっとだけ見える。

席決めしても窓際に座りたいかも。


なんて思いながら美月たちと雑談をしていると前側の扉が開き、担任の吉井先生と学年主任の田辺先生が教室に入ってきた。

ざわついていた教室が静かになり、まずは先生方の自己紹介から初めてのホームルームが始まった。

吉井先生は、この高校の卒業生でもあり、まだ2年目の若手の先生。中々のイケメンなんだけど気さくで話しやすい感じで印象的には優しいお兄さんって感じかな。

そして田辺先生。こちらは落ち着いた雰囲気でベテランな感じなんだけど、女の私から見ても綺麗な大人の女性って感じ。

先生もこの高校の卒業生でバスケ部で活躍されていたらしく、吉井先生のお父さんとお母さんとは同級生だったらしい。

娘さんが大学生って言ってたし、多分私の両親よりも年上だとは思うんだけどで年齢不詳な美魔女なって感じかな。


先生方の自己紹介の後は、私達生徒の自己紹介。

緊張して少し噛んでしまったけど、それなりに自己アピールは出来たつもりだ。

楽しい高校生活になると良いな。


そして、全員の自己紹介が終わった後、明日からのオリエンテーションや授業の説明を受け1日目のホームルームは終了となった。


「ねぇ恵梨香。もちろん行くでしょ?山本くんのところ」

「え!?」


先生方が教室を出たのを見計らって美月が話し掛けてきた。


「行かないの?」

「・・・行く」


本当にあの山本くんなら会って話をしてみたい。

あの日どうして何も言わずに転校してしまったのか?

私のことなんて興味なくなってしまったからなのか?

でも、何だかそれを聞くのも怖いというか・・・私が彼の好意を拒絶していたのに調子いい話だとは思うけどね。


そんな事を思いながら、私と美月は山本くん(仮)が居るはずのC組に向かおうと教室を出た

と、ちょうど教室を出て階段へと向かう山本くん(仮)に気がついた。


「山本くん!!」

「ん?」


思わず声を掛けた私の方を振り向いた山本くん(仮)

・・・似ている。

入学式では遠目でしか見れなかったけどやっぱり本人・・・だよね。

背は前より高くなってるし、体型も幾分ガッチリしたみたいだけど、顔つきや雰囲気はあの山本くんだ。


「ねぇ?山本くんって川野中に居た山本一翔くんだよね?」

「・・・稲田さんと相良さん?」

「「!!」」


私の問い掛けに驚きながらも返事をしてくれた。

自分で聞いておいて驚くのも失礼だけど私と美月の事を知ってるってことは、やっぱりあの山本くんだよね。


「やっぱり山本くんなんだ。その・・・久しぶりだね」

「・・・うん。久しぶりだね。

 2人とも川野辺高校に進学したんだ。

 地元だし、もしかしたら同じ高校になるかもしれないとは思ったけど。

 その・・・元気だった?」

「・・・うん」

「・・・・」

「・・・・」


再会できたら色々と言いたい事があったはずなのに言葉が出てこない。

こっちから声を掛けたのに会話が続かない。

転校の件を聞くんじゃなかったの私!

それに山本くんも以前の様な快活さがないというか視線を私や美月と合わせてくれない。それもそも山本くんってこんなに無口だったっけ?

前は一緒に居ても何かしら会話してた気がするけど。

それから以前は"恵梨香"って名前呼びだったのに私のこと"稲田さん"って呼んだ。

久々だから山本くんも緊張してる?

それとも・・・


「もぉ。。。2人とも久々の再会なんだからもっと楽しそうにしなさいよ」

「あ あぁそうだよな」

「そ そうだよね美月」

「こんなところで話ししてるのも通行の邪魔だし場所移さない?」


いいタイミングで美月が会話に割り込んでくれた。

私も何を話していいかわからなくなってたし、美月ってこういう空気読むの上手いのよね。

それに何処か場所を移して少し落ち着けば会話だってちゃんと出来るはず!


「そ そうだね。山本くんこの後時間あるかな?

 よかったらこの後3人で「ああ山本くん居た!!」「もぉ行くの早いよ~」

「え?」


私が山本くんと話をしていると会話を遮るように女子生徒が山本くんに声を掛けてきた。

振り返ると同じ新入生と思われる生徒数名がC組の教室からこちらに向かって歩いてきた。

さっき会話に割り込んできた女子生徒は笑顔で山本くんに手を振っている。


「ごめん2人とも。俺この後さ、クラスのみんなと約束があるんだ」

「そう なんだ・・・」

「それなら仕方ないわね。

 まぁ会おうと思えばこれから毎日会えるんだし、今度ゆっくり話しましょ」

「そうだな。それじゃまたな」

「あ、」


山本くんは、私と美月に返事をするとクラスの輪の中に入っていった。

男子生徒も居るけど山本くんの周りは女子生徒がほとんどだ。

みんなで遊びにでも行くのかな?

楽しそうに隣の子と話ししてる。


「山本くん。初日からモテモテだね」

「うん」

「中学の時は恵梨香一筋だったのにね」

「・・・もう1年以上前の話だし」


そうだよ。もう1年以上前の話なんだよね・・・

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