1.あいつの存在

「おっはよう!恵梨香」

「おはよう美月♪同じクラスになれると良いね」


桜舞う4月。

私は地元でも有数の進学校でもある川野辺高校に入学した。

今日はその入学式。

親友の美月も一緒だ。

2人して勉強頑張ったもんなぁ。


山本くんが転校して1年と少々。

授業や学校でのイベントは特に問題もなく過ぎていったけど、

何か物足りないというか・・・

心にぽっかり穴が空いた様なというか・・・

毎日告白をされていたときはウザいくらいに感じていたのに、いざ居なくなってしまうと、寂しく感じるようになって・・・

本当、私ってこんなにツンデレだったのかと思うくらい喪失感の様なものを感じていた。美月やクラスの友達にも心配されたくらいだから目に見えてダメージ受けてたんだね私。


一度連絡してみようかなとも思ったけど、山本くんって携帯とか持ってなかったし、引越し先も詳しく知ってる人が居なかったから連絡先もわからなかった。

元気にしてるのかな。あいつ。

それにまだバスケ続けてるのかな。

私も・・・高校入ったらバスケ始めてみようかな。

運動苦手だけどマネージャーってのもあるよね。


でも・・・山本くんって見た目はかっこよかったし、もしかしたら今頃素敵な彼女さんとか居たりするのかな?

なんか・・・嫌だな。

山本くんの告白を断ってたのは私だし、そんな事言う権利ないんだけど。。。


「恵梨香?どうかした?」

「あ、なんでも無いちょっと考え事してた」


うん。今は入学式だよね。

山本くんのことは考えてどうなるわけでもないしね。

でも、なんでこんなタイミングで急に思い出したんだろ。

少し感傷的になってるのかな?


そんなことを思いながら昇降口に向かうと掲示板にクラス割りが張り出されていた。


「美月!私達同じクラスだよ!A組だって」

「うん。他にも川野中の卒業生居るね!」


思っていたより同じ中学の卒業生がクラスに居た。

美月の他にも仲が良かった子もいる。

これは楽しい高校生活の予感♪

担任は吉井 和也先生。学年主任は田辺 楓先生か。

どんな先生だろ?優しい先生かな?怖いのは嫌だな。。。


「あ、恵梨香。先に体育館行くみたいだよ。式典の後クラスでHRみたい」

「本当だ!時間あんまりないじゃない!急ご!っていうか体育館どこ!」

「新入生っぽい人達あっち向かってるよ」

「うん。私達も行こ」


体育館には既に多くの人が着席していた。

私達が指定された席に座ってしばらくすると入学式が始まった。

ほんとうギリギリだったのかも。。。。


さっきまでは美月と2人和やかな雰囲気でいたけど、実際に式が始まるとやっぱり緊張する。

今日から高校生なんだよね。


「それでは、続いて新入生代表の挨拶です。

 新入生代表 山本一翔」

「はい!」


式は進み新入生代表の挨拶となり、進行を行っている相良洋子先生がその名前を読み上げた。

ちなみにこの先生は美月の叔母さんとのこと(美月のお父さんの妹さん)

入試前の学校見学会の時に紹介してもらったけど、うちのお母さんとあんまり年齢変わらないはずなのに綺麗で優しくてすごく素敵な人。

数学の先生で、バスケ部とコンピュータ部の顧問をしているとか言ってたな。

あ、部活。バスケ部とか考えてたけど・・・って、今はそこじゃない!

今、山本一翔って言った?

まさかあいつ?

それに新入生代表って、入学試験で一番成績良かった人だよね?

確かにあいつって成績良かったけど・・・単なる同姓同名?


まさかと思いつつ少し前に座っている美月の方を見ると美月も驚いたような表情で私の方を見ながら小声で話し掛けてきた。


「ね、ねぇ恵梨香。もしかしてあの山本君なの?帰ってきたのかな?」

「わ、私に聞かれてもわからないよ。で でも まさか・・・。多分同姓同名だよ」


そうとしか言えなかった。

うん。そうだよ。帰ってくるなら私に一言くらい。

それに山本くんと仲が良かった人(中学の同級生)も何にも言ってなかったし。

そう思いながら私は顔を壇上に向かう男子生徒に向けた。


壇上に向かう男子生徒は、あの日より幾分背が高くなっていたけど、あの日私の前からいなくなった彼にそっくりで・・・もしかして本当にあの山本くん?


そんな山本くん(仮)の挨拶は緊張を感じさせない見事なものだった。

周りの女子生徒も憧れのような目で見ている。

まぁそうなるよね。

正直私もちょっとカッコ良いと思ってしまった。

でも、あの人は本当に?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る