好きになってよかった
ひろきち
プロローグ
「恵梨香!好きだ俺と付き合ってくれ!!」
「嫌!」
「瞬殺か!いや!そこを何とか!」
「・・・何よそれ。キモい」
「・・・うぅ・・・そっか・・・そうだよな」
毎朝の恒例行事とも言える校門近くで行われる私(稲田恵梨香)への告白劇。
通学中の他の生徒も何事もないかのように横を通り過ぎていく。
最初の頃は結構興味津々に注目されてたんだけどな。
「はは。恵梨香は相変わらず手厳しいね。キモいとか。
まぁ山本くんも滅気ずにまた明日頑張ってくれたまえ♡」
「・・・・・」
「ほらほら美月。そんなの構ってないで早く教室行こ」
「あ、待ってよ恵梨香」
一緒に歩いているのは相良美月。
中学に入ってから出来た友人で親友と呼べるような間柄だ。
ショートボブの髪型にメガネで小柄。その割に胸は大きかったり、ちょっと庇護欲をそそるような童顔と属性てんこ盛りの可愛い女の子。
男子にはかなり人気があるんだけど本人はかなりドライ。
どちらかというと2次元の美少年の方が大好きらしく、現実の彼氏とかはあまり興味が無いらしい。本当勿体ない。
で、さっき私に告白してきたのは山本一翔。
彼もクラスは違うけど同級生だ。
入学式の時に私に一目惚れしたとかで、皆の前でいきなり告白された。
告白されたのとか初めてだったし、初対面の男の子だし、それに皆が見ている前だし、恥ずかしいし、とその時はいっぱいいっぱいで考えが追いつかず思いっきり「嫌!!」って断った。
ちなみに私は、小学校では大人し目で目立たない子だったから中学に入ったら頑張るぞ!!と髪型変えて気合を入れていたわけだけど、初日から想定外なところで目立ってしまった。
まぁ想定外ではあったけど、そのお陰というか、告白ネタをきっかけに"大変だったね"とか声を掛けてきてくれる子がたくさん居てすぐに友達を作ることが出来たんだけどね。
美月と知り合ったのもその時だったから、彼にもある意味では感謝してよいのかもしれない。
でも・・・入学式以降も彼は諦めなかった。
私を見かけると親しげに話しかけてくるし、隙きあらば懲りずに告白を繰り返した。
根性があるというか、諦めが悪いというか、そんな関係は2年生になった今も続いている。
最初の頃は”そんなに私のことが?"とか思ってちょっとドキドキしてたりもしていたんだけど、毎日毎日来られると流石に"意地になってるだけなんじゃ?"とも思うようになった。
まぁ悪いやつでは無いし、普通に友達付き合いはしているけどね。
ちなみに山本くんって、普通にしていれば結構モテる条件を持っている。
バスケ部所属で運動神経もよく、成績も学年上位。
顔も多分かっこいい部類に入ると思う。
だからこそ、なんで私への告白を拘っているのか全くわからない。
一目惚れとは言われたけど、私はそれほど特徴がある顔でもないし、自分で言うのも悲しいけど客観的に見て可愛いかは微妙だ。
本当なんで私なんだろう。
「でもさ、恵梨香」
「ん?何?」
教室へ向かう途中美月が話し掛けてきた。
「なんか、今日の山本くん変じゃなかった?」
「そお?いつも変でしょ?」
「それはちょっと可愛そうだぞ恵梨香。。。
まぁ変わらないといえば変わらないけど。
最後の方とか、少し思い詰めた顔してたような気がしたんだよね」
「そうかなぁ」
言われてみれば確かに"だよな"とか、私が"キモい"って言ったのを肯定してたし。
なんだか元気もなかったような気もしたけど・・・
その時の私は、その程度にしか思わなかった。
いや、この先もまた同じ日常が来ると思って、あまり気にしてなかったのかもしれない。
翌日山本くんは学校に来なかった。
いや、正確には学校に来れなかったんだ。
お父さんの仕事の都合で転校することになったらしくて・・・。
山本くん自身、元々はこの街の出身らしいけどお父さんの仕事の都合で引っ越しが多く、小学校6年生の時に街に戻ってきたと言っていた。
だからの顔なじみも少ないんだとか。
転校のことは山本くんの所属する隣のクラスでは当然発表があったみたいだけどクラスが違う私は知らなかった。
・・・知っていたらもう少し話しもしたのに。
それにあんなに毎日告白してきていたのにこんな大事なことを言わずに居なくなるなんて・・・。やっぱり、意地を張ってただけでその程度の思いだったのかな。
「大丈夫?恵梨香」
「ふぇ?な 何が?」
「いや、だって山本くん転校しちゃったって言うし、今も凄く寂しそうな顔してたから」
「え?そ そんなことないよ。あんな奴居なくなって清々してるわよ」
「恵梨香・・・」
そうよ。あんなヤツ。
居なくなったって寂しくなんか無いんだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます