024. もうひとつの謎
「なるほど、ケイはそんなことで迷ってたんだね。」
昼休みだった。目の前で吉徳がニヤニヤしながら、しょうがないな、というように頷いている。無性に腹の立つ顔だ。
「つまり、謎解きをしてしまうと江坂さんと屋台を調査する放課後が終わりになってしまうけど、謎解きを拒否することで調査が終わるのをさみしいと思ってることを自分で認めたくはない、と。」
「そう言われれば、そうなのかな――」
「ケイは屋台の謎を解くことにかまけていて、もっと大事な謎の方をおざなりにしていたんじゃないかな?」
吉徳は、教室の一番端で一人で昼食を食べている江坂ゆきのの方にちらっと視線を送る。
「そっちも別に忘れてはいないさ。」
「にしても、そちらに関しては、少しばかり怠慢じゃないかい?」
「何が言いたい?」
「つまり、やろうと思えば、ケイはもっと簡単に、早く江坂さんの謎をたしかめることができたんじゃないか、ってことだよ。」
「でも――」
「そして、それはケイにしかできないことだ。」
こういうときの吉徳は、相も変わらずにやにやしてるくせに、妙に目が真剣だ。
「わかってるさ、ただ、確証がもてなくてな。」
「わかってるならいいんだ。」
ケイは僕を一度見て、それから見透かしたように言う。
「それだったら、今迷ってることだって、最初から答えが出てるんじゃないかい?」
「それは――」
「前にも言ったけど、ケイは自分から望んで江坂さんとの部活を続けていたように見えたよ。抜けようと思えば、降りるチャンスだって何度かあったはずだ。」
「それは成り行きの問題だって言っただろう。」
「でも、実際にはやめたりしなかった。」
「人の話を聞けよ――」
「聞いてるさ。だから、ケイにとって、解き明かしたい謎は、最初から屋台なんかじゃない。江坂さんだったんだろう? そしたら、謎解きをして調査が終わるか終わらないか、なんて本当はどうでもいいことなんじゃないのか?」
「だから、わかってるって。」
思ったより大きな声が出て、自分でも少し驚く。
「ごめんごめん、蛇足だった。」
吉徳がへらへらしたまま謝る。まったく、本当に悪いと思ってるのか、思ってないのか、どうも本心の見えづらいやつである。
「いや、こちらこそすまん。つまり、ヨシが言いたいのは、江坂のことが知りたいなら、謎解きやら部活やらにこだわる必要がないはずだ、って言いたいんだろ。」
「まあ、そうだな。」
「別に俺は、はじめから死に至る屋台の謎や奇譚研究会にそんなにこだわった覚えはない。さっきも言ったが、成り行きで何となく続けているだけだし。」
「まったく、素直じゃないねえ。」
呆れた、と言った顔で吉徳が言う。
「それに、放課後に本を読んだり、だらだらする場所ができて都合が良かった。一応部活に入っていれば、教師から目をつけられることもない。」
はいはい、と吉徳は頷いている。
「だが、お前の言ったことは、よく胸に刻んでおくよ。」
そりゃどうも、吉徳はそう言って僕の顔を見て、にやっと笑った。
僕もつられて、思わず笑う。
まったく、お節介な親友を持ったものである。
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