一二 ハーレムを作るよ~

「異世界といったらハーレムだよね」

「異世界人マジおこだぞ、きっと」


 今日はこれかぁ。ボクの幼馴染のユウの登場は、いつも元気でいつも変。想像の斜め下の四五度、ちょうどねじれの位置あたりにやってくるのだ。向日葵ひまわりのような満面の笑みとともに。


「わたし、気がついたの。ハーレムもなんか楽しそうって」

「ボクだったら複数人でユウの周りに侍るひとりになるのはちょっと遠慮したい。独占したいからね」

「ちょ、こら……」


 ドサクサに紛れて口説いてみたら、なんだか頬を赤く染めてくれたぞ。いいよいいよー。自分から仕掛けてくるのは平気なくせに、こちらの押しには圧倒的に脆弱なのは可愛すぎかよ。ちょろいのか?


「か、勘違いしないでよね? ワタシが断固としてキミのハーレムを作るのよ!」

「えっ、ボクの? ボクは特定のひとりが寄り添ってくれればそれでいいのだけれど」


 あ、ちょっとツンデレっぽいななんて思いつつ、特定のひとり候補に向けた視線はあっさりと切られてしまった。


「つーん、ワタシは正妻戦争をするのが、夢なのよ!」

 あっ、これは話を聞かないやつだ。ユウが変なことを言い始めてボクが疲れるパターンでもある。当の本人は腰に手をあてて貧者の胸をはってすっごいドヤ顔だ。口角があがってめちゃくちゃいい笑顔でもある。愛でるには最適な生き物なんだけどね。口から溢れだすカオスがちょっと難ありです。


 それにしてもそこに目をつけちゃいましたか。たしかに世の中にはハーレムな感じのお話はいっぱいあるけれども。そしてそんな物語を面白く感じてしまうのも否定はできないですけれども。なんなら好きって言っても過言ではないけれども。でも実際に自分がその立場に収まるのは、ねぇ。そこに至るまでの道のりを考えるとカロリーが高すぎるんだよなぁ。


 仮にだ、仮にだぞ。ボクに対して複数人が言い寄ってきてそれぞれに恋愛関係が成立するとしたら、各各に一対一で接していくはずでしょ。そうしたらハーレムメンバー同士の軋轢とか愚痴られたりするよね、考えるだけで胃が痛いよ。調整役とかになったらって思うとそれだけで鬱になるまである。


 確かに現実世界にもハーレムや後宮、大奥など時の権力者たちの権勢と利権に群がるように成立している事例は枚挙に暇がないとはいえども。


「大体、そもそも相手が現れないよね。簡単に好きになってくれるわけもないだろうし。更にいえばハーレムなんてかなり難易度の高い妄想の産物だよね」

「大丈夫、異世界人はモテる設定だから。ご都合主義チートだから!」

「設定いうなし。台無しだよ」


「とにもかくにも、ワタシは正妻戦争を経験して、歳をとってから戦争の話をひ孫にするのが夢だから~」

「なんか従軍経験談みたいな流れだけど、おかしいからね。それは一体どういったものなのよ。その戦争は」


「あ、気になっちゃった? やってみる、正妻戦争を」

「えっ、なにやらされるの? 怖いんだけど」


 メガネをすちゃってやって位置を直した。ユウの中でなにかを切り替えているときのクセなんだよな、コレ。心構えができるからいいけど。


「では早速いくよ! キミそこをどいてそいつ殺せない!」

「初手から刃傷沙汰!」

「巨乳滅ぶべし、ハリセンの雫になれ~」

「ロリ……幼稚園でも作るつもりですかね、この娘は。もうちょっと穏やかなのを希望するんだけど」

「とりあえず敵性存在おむねの駆除は急務だよ」

「ユウそれはやめてそれだと揉めない!」

「ちっ、これだから星人は……」

 ジトっとした目で見られた。


 ユウがボクの左腕に自分の腕を絡めてくる。唐突な行動だけど嬉しみしかないな。

「うへへ。じゃデート行こうよ」

「え、なにこれ。出かけるの? いいけど」

 そうしたら、今度は反対側に移動してボクの右腕にぶら下がり、ひっぱりながら言うのだ。

「あーずっるい~。ユウはあたしとでかけるにゃん」

「あ、ふたりいる設定か」


 これは左右からひっぱりあってる流れだな。こんなモテ人生は妄想でしかないとおもうけどね。とりあえず人生で一度は言ってみたい台詞を開示しますかね。

「やめて、ボクをとりあわないで!」

「身体強化発動! ユウは渡さない!」

「まけないにゃん~。全力全開!」

 あ、聞いてませんね。


「おいやめろ、この流れは裂けちゃうヤツだから」

「これなら半分ずつシェアできるよね~」

「いいアイディアにゃん」

「いっつさいこぱす! 戦争は悲劇しか生まないよ」


 戦争は当人同士ではない第三者が割を食うものだ。ボクが第三者にあたるのかは議論の余地があるかもしれないが、生命の危機にひんしては許容できない。やめてよしてやめてよして。ああああぁぁ、裂けちゃう~。


「ちゅんちゅん。それはなんの変哲もないある朝のことだった……」

「モノローグが口から漏れとるがな」


「ふふ、おはようにゃん。おにいちゃん」

 またネコ獣人と同衾しちゃったかぁ。前にもあったなこれは。テッパンのファンタジー(いや妄想かもしれんが)なシチュエーションではあるんだけどね。

「がちゃ。おはよう起きてる? ……ってあなたたちはなにをしていたのかしら」

「それは言えないにゃん」

「ネコ! まじでネコ! めっちゃネコ! ゆえに泥棒。この泥棒ネコめ」


 なにこの茶番。息をするように一人二役をこなすやつだなぁ。まぁこれは、言ってみたい台詞ではある……のかな。

「キミそこをどいてそいつ殺せない!」

「それはもうやった」

「ならば戦争だ!」


 これも、言ってみたい台詞ではあるけどね。たいがい物騒な感じに移行していくんだね。ユウの中の正妻戦争だと、きっと人死ひとじにがでるよね。


「どこまでいっても、戦争というか痴情のもつれだよね、これ。平和なのでお願いしたいな」

「悲しいけれどこれ、戦争なのよね」

「ダレッガーさんだよ!」

「ちなみに、最終的には約五十九人のハーレムメンバーが現れるらしいから!」

「おおいな、しかもどことなく曖昧」

「数えたことはないからね」


「チェンジ、もっと違うのを頼む」

「えー。しかたないなぁ。一応聞いてあげるけど、な、なんでもできるなんて思わないでよね。それで、どんなのがいいの?」

「もうちょっと甘酸っぱくて、ハスハスしたりとか、によによしたりとか、ゴロゴロできるやつでお願いしたい」

「ちょっとまってね、準備するから」

 あっ、リク応してくれるんだ。うお、すげーぜ。


「はい、プレゼント」

 それで手渡されたものは、スーパーとかで貰える透明の袋にはいっている淡い檸檬色のぱんつであった。


「これをどうしろと……」

「まず袋の中を程よく吟味します、それでによによしてください」

「ヤバい人じゃん」

「それから袋をかるく閉じながら口元に寄せてハスハスします」

「やめれ、それシンナー吸うやつな」

 変態だぞ、それは。主にボクが……。

「甘酸っぱい成分を感じて、脳がアドレナリンを排出しまくったらふとんでゴロゴロしてください」

「うん、ド変態の廃人だわ、それ」

 主にボクだ。いやー戦争関係ないなー。おまわりさーん。


「仮にユウはボクがそれをやっていても平気なのか?」

「イヤに決まってるじゃん」

「をーい、どうしてコレを渡した」


「ハーレムが完成するとおおむねこんな感じになるから」ってなんかまた始まったぞ。

「とりまハーレムメンバーはもうすでに遭遇してみんな堕ちてるから」


「だれっ、怖っ。そんな人いた? チョロインすぎない?」

 いつの間にか我が人生に浸透攻撃が行われていたようですよ。


「いつも可愛いっていってくれるし、本当に大好きだよ」

「ユウ本人じゃん! でもちょろすぎて、おかしくない? てかあなたボクを振りましたよね?」

「ふふふ。わたしを含めてハーレム要員はやまもりよー。ダーリン」


 ユウ本人が正妻ポジションで告ってくるとかやばくね。ハーレムいいかも。これならば全肯定まったなしだよな。なんて思ってふとユウに視線をやるとによによしておった。控えめにいってとても悪い笑顔に見える。


「おにいちゃん、大好きにゃん。あたしの躰を好きなように撫で回したにゃん? しかも一緒の布団で朝チュンしたにゃん」

「髪の毛な! 頭撫でたね、そうだよね。布団インはこっそりだしな!」

「こまかいにゃん、せっかくオブラートで包んだのに~にゃん」

「包んだのは不透明すぎるゴミ袋みたいなヤツでな。中と外の乖離かいりがひどいぞ」

 あーいたな、ネコの獣人。それにしてもまた誤解を招く発言をしおってからに。てかメンバーに入っているのね。この調子だと、ハーレムに幼女っぽいのしかいねーじゃん。どうせのじゃろりとかヘリコプターとかなんだろ。


「カプメンおごってくれたよ、ひひーん」

「ちょろ牝駄馬ひんだばきやがった」

 違った~~。ウマじゃねーか。ロリだらけとかちょっと期待してごめんなさい。人ですらなかったよ。このウマ面は視点が定まっていなくて怖いんだよな。う、馬でいいんだよな。てかいつのまにウマ面被った。ハグしてくるのは嬉しいんだけど、嬉しいんだけれども、猛烈にときめかねぇ。


「お前を転生させてやろうか……遺産……ほしい……」

すけきよ女神様。ちょっとー女神様が混じっているじゃん、しかもお金目当て。そのマスクには愛しみは覚えねーよ!」

 しっしっ、雪国へおかえり。


「よーよー、にーちゃん……ぽっ」

「おっさん冒険者!」

 腹筋さわるな。ゾワゾワする。なんだよもう。メス♀ですらねーじゃんか。これなら紳士になってもいいかなって思えちゃうわ。メンバーの癖が強すぎる。


「ワシの大切なものを奪ったのじゃ。責任とろーな」

「ハリセンな」

 やっぱりいたか。


「…………ここです」

「エルフいる感ださないで」

 やっぱりいたの?


「ぐぎゃぎゃぎゃ」

「ごぶイン。しかも池に頭から刺さって経験値になったヤツじゃんかよ! どこから声出した!」


「あ、忘れてた。ポイズンAIあいちゃんもいれとく?」

「それをいれるなんてとんでもない」

 品質の問題をクリアできてないなー。


「いやーいっぱいいるよねー」

「種族性別関係ないのかよ!」

「あーキミってそうゆう差別するひとだっけ? 悪い子だよう。猛省を促すよ~」

「うっせーわ、ボクにも選ぶ権利はあるんだよ……きっと」

 ああ言えばこう言うんだから。ボクのハーレムがおかしい件。少なくともユウにメンバーの選出は任せてはいけない気がしたある日の夕暮れ刻。


 もうハーレムじゃなくてパンドラの匣だよ。絶望しかでてきやしない。最後に残るものは希望ユウだといいけどな。

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