一一 盗賊団ドナドナ

「さぁ、出発だよ~ウマ」

 カップ麺にお湯を注いで自室に持ってきたところにユウが遊びにきた。ボクで。


 ある晴れた昼下がり、ボクは盗賊団の元へと馬車でゴトゴトと運ばれているそうだ。ユウが言うには、最近街道沿いに二〇人以上の規模の盗賊団が出没しているらしいから、討伐に行くことになっているんだって。


「冒険者っぽいでしょ?」とはユウの言だが、もっとほかにやることはなかったんですかね。嫌な予感しかしないんだよね。


「あ、馬車は商隊っぽく偽装してるけれど、中にはおっさんがテトリスのように詰め込まれているのはお察しだよ」

「え、暑苦しいんだけど」

「まぁ襲われるまでの我慢だよ、がうまんがうまん」


「え、それは馬車の中でってことではないよね?」

「…………うん」


「間! ねぇいまの間なに? で、ユウはそんなウマ面のマスクをかぶってなにをしてらっしゃるのかな?」

「馬車に牽かれる馬をやってるウマ」


「なんという馬車の牽引力、機械化されてませんかねぇ。ウマが圧倒的に楽してるじゃねーか」

「えへへ、気にするなよ。中に乗ってるおっさんが一生懸命に馬車を動かしてるからね」


 親指を立ててサムズアップをしてくる。ウマ面の下はきっと凄いイイ笑顔なんだろうな。でもそれは、船倉で一心不乱にかいを漕いでいる奴隷ポジじゃね? おっさんを大切にな。


「ところで盗賊を退治に行くメンツって色色いるよね? 傭兵、騎士、ギルド員、御者それこそ冒険者とかさぁ。どうして、このメンバーのなかからユウは馬の役を選んじゃうのかな?」


「羨ましい? いいでしょ~譲らないからねウマ。ウマCはあいてるから一緒にやる?」

「いや、ふたりでウマの役をやってどうするんだよ……」


「なりたいものになれるのが異世界の醍醐味ウマ」

「役どころも、ウマなまりもひどいもんだな」

 アゴをちょっと上向けて「ひひん↑」とか言ってるのがふふん的なイントネーションで微妙に偉そうなんだけど。


「出発してそろそろ三分経過したので休憩するウマよ~」

「はやくね?」


飼葉ごはんを食べないと動かないでーすウマ」

 ちらっとボクのインスタントな糧食を見るんじゃありません。


「ボクのご飯、そもそもウマ雑食すぎね?」

「カップ麺がいっこあったら、キミとふたりで半分こ♪」


「いいけどさぁ。解せぬ」

 ちょおま、半分以上食べたじゃんか。


「とりあえず、お腹いっぱいになったからいこっか~」

「ゆるいなぁ~」


 そもそも、盗賊退治とか物語の序盤の見せ場なんだろうけれど、そんなに発生しちゃうものなの? 数も異常と言える多さだし、G並みに雑に退治されちゃうよね。もしかしてスプレーとかで倒せるんじゃね、と錯覚するほどには。世紀末覇者とかいる世界ならともかくとしてさぁ。


 また殺人という事柄に焦点を当ててることも多くて精神面での言及もよくみられるんだよね。最も治安の良いとされる国の一つ現代日本との明確な線引をされる箇所でもあってその扱いは多岐にわたるね。まぁ様式美の一つとして認識しておきますかね。


「あーなんだかー、道の真ん中にー木がたおれてるーウマ」

「棒読みにすぎる。これあれだろ、早速盗賊っぽいのがでるやつな」

 障害物で馬車を止めてからってヤツね。


「なので避けウまーす」

「え、うをーい。なにそれフラグじゃなかったのかよ」


「ぐぎゃあ」

「あれ、盗賊じゃなくってゴブリンいない?」

「あ、ごめん。寝てたおじさん踏んじゃったウマ」

「気をつけたげて!」


 それから、ユウはくぐもった声で「しばしご歓談下さい」と宣言するとともに、ウマ面マスクを外そうとするがどこかに引っかかっているみたいでジタジタしてる。ふふっ、なごむなー。てか誰と歓談するんだよ。


「ああー。怒ったおっさんの群れに囲まれたー(棒)」

 しばらく後に立ち上がったユウは、頭に黄色いバンダナを巻いて、顔に斜めの傷が貼ってあり、胸にジョリーロジャーのバッチをくっつけて開口一番こう言うのだ。


「蒼天すでに死す。黄天まさに立つべし」

「黄巾党! その人達は宗教っぽい農民反乱の人たちだからな」


「あのーすいません。お忙しいところ申し訳ございませんが、金をだせ」

「んー。なにこれ。盗賊?」


「プルプル、いま踏まれたおじさんは悪い賊ぢゃないよ」

「“賊”って名乗ってるじゃないか。他人の財産を盗むとか、武器で人を傷つけるものって意味だからな!」


「そんなの知らない、気のせいだもん」

「脳みそ腐ってるのかよ」


「盗賊じゃないもん。我が名はぎやらはち、この界隈を根城にする、略奪系集金おじさんだよ」

「ないもんって。名乗っちゃったよ。しかも変な名前だし、類推するにメンバーの中にひぽさわとかいけいけ、くろますなんかがいそうだな」


「な、なぜそれを!? 二五人いることもバレてるのかよ」

「わからいでか」


「そこまで、知られちまっているならもう殺るしかないな。おうお前ら、女は殺せ、男は楽しんでからドナドナだ!」

「がってんでー、ぐへへ」


 何役やるつもりなんだろうね、この娘は。まぁいつものことか。ボクがいて、それ以外は全部ユウがやるいつもの流れね。


「あいつ頭おかしいぞ、お頭を怒らせるなんて」「やべぇお頭がキレてるよ」「キレてるキレてる!」

 なんでダブルバイセップスとかサイドチェストとかしながら受け答えしてる風なんだよ。


「ちょっ、この盗賊団ヤダ、質悪たちわるい~」


 ユウよ、また、それを被ったのかよ。さっき脱げなくて苦労してたじゃん。


「さて、役者はそろったようですウマね。先生お願いします」

「なにいってるの? どっちかというと悪者ムーブの気がするんだけど」


「さっさと殺っておしウまい」

「だからさぁ、悪役のセリフじゃん、それ」

「そ、そんなことないウマよ。キミさん、ユウさん、皆殺しにしてやりなさいバ」

「えっ、そもそもウマが命令系統の最上位だったのかよ」


「とりあえず殺ることはあれだから。盗賊というレッテルを貼ってしばく。かたっぱしから小突き回す感じだから? ゆ~ぽにー?」

「あいこぴー? 微妙にダジャレなんだろうけど、音引きしか合ってないからね」


「まぁあれですよ。上質な死んだ魚の目をした雑魚ざこばっかりだから、上手に正面から半キャラずらして当たれば無傷で倒せるとおもうよ」

「また変なことを言いだしたぞ」


「おっさんに人権なんてないからサクッといっとこー」

「守ってオヤジン権。そういえば、ボク戦い方全く知らないよね?」

「へいきへいきー。ごーごー。剣を振る。賊は死ぬ。簡単なお仕事」


 なんで片言。ここらへんはファンタジーとしてサクッとスルーしちゃいたいところなんだよね。エグい描写とか勘弁だしね。


「ウマは応援しかしてないよね?」

「……ば」

「ば?」

「バフをかけてる。ウマだけに」

「なんてものかけてくるんだよ!」

 油断も隙もあったもんじゃない。


「それから二秒経った」

「えっと……」

「はい、死んだ~。じゃらっじゃらっら~んん」

「スーパー盗賊くんがぁ~」

「で、盗賊の討伐はウマく終わったわけなんだよ」


「だいぶ端折ったね。少なくとも一秒あたり十人以上なんだけど、まじ刹那」

「盗賊を一人ひとり倒していく描写なんてなんのウマみもないからねぇ」

「さいですか」


「そんなこんなで、戦いに勝利したらからライブをやったほうが良いのかしら?」

「そのウマ面付けたままなのはちょっと、心臓に悪いので遠慮したいかな」


「今人気だよ? ウマ面娘うまづらっこ

「なんか余計なのがまじってるんだよー。って読むのかよ。しかもそれは全方面に土下座必至だぞ!」


「ところで、戦闘中と思わしき時間の中で少しづつ服を脱いでいって水着になったのはどうしてなんでしょうかねぇ?」

「え、演出?」

 なに言ってるんだこいつは。今日のは臙脂色の競泳水着っぽくてカットがエグいよ、脚がすごい長く見えるんだよなぁ。


「それじゃ、今日のメインイベント。必要な部位を切り取るのよウマ」

 なんか色色と台無しにしてくれおる。討伐の証拠を持ち帰るのは異世界ファンタジーの常識。なのだけれども、ねぇ。


「キミはゴブリンを討伐した証明をどうするかわかるかな?」

「えっと、左耳を切り取って討伐の証にするとかだろ?」


「そう、『取』という漢字は耳と又。又は手の象形文字で耳をつまんで取ることをもともと意味しているのよ」

「つまり耳を取れと?」

「いいえ、首を取るのよ! 日本の戦国時代に準拠するのよ」

「なんのための耳の前フリだったんだよ」

「ひひん。薀蓄うんちくどやぁ」


「うわ、なんか得意げではらたつ。それにしても、二五人ぐらいいた設定だったよな?」

「そう、いっぱい切れるよ」

「いっぱいて。人の頭って四から六キログラムくらいは普通にあるらしいぞ。二五人分だと百キログラム余裕で超えるくらいになると思うのだけど……」


「そこでマジック収納~」

 ユウは自分の胸元を指差しながらそんなことをいってるのだけれど。たしかにそんなことを言ってた記憶もあるけれども。


「その胸の谷間らしきところに生首を突っ込むのか? シュールすぎる絵面でつらいわ」


「らしき?」

「らしき」

「…………」

 ぷるぷるしながら、おもむろに棍棒取りださないで。

「お客様鈍器は禁止されております」


「ところで首を切り取るとかゾッとしないなぁ。てか切るの超大変なのでは?」

「なんとかなるって。まずは包丁をとぎます。次に首を切ります。はらしょー。までがセットよ」

「なにそれ……」


「ほら、さっさと首刈ってよね」

「ツンデレっぽくいってるけど、確実に色相が濁ってるぞ」


「あーん、あたまあたま」

 そんなとりとめもないことを話していると、遅刻しそうなドジっ子との接近遭遇のような声が聞こえてきた。


「おい、なんだそのメガネメガネみたいなノリは、頭はなかった時点で探せないからな」

「残念。目が見えてないものね。ならばしかたない、頭がなければアンパンにすればいいじゃない」


「もしもーし。そうじゃないんだよなぁ。死んじゃってるよね?」

「そうかなぁ? じゃあ頭からは体を、体からは頭を生やせば二倍生きられるということだね」

「“だね”じゃねーよ。プラナリアかよ。生き汚いにもほどがある」


「ほらほら、なにをモタモタしてるのかな? 盗賊たちが立ち上がり始めるよ~」

「そもそもの話になっちゃうのだが。討伐ったし、死んでたよね? なんで喋るのかな?」


「ほらー、早くしまわないと~生き返るじゃん。リポップするかもだよ~」

「こいつら人間じゃねぇ」

「盗賊だしね」

「いやいや、それ種族的なカテゴリーとかじゃないよね? アンデッドの総称でもないからな」


「結論としては街道のこの地点が湧きポイントだったんだよ。どこかにスポナーがあるかもねー」

 な、なんだってー。


「いやいやいや、盗賊はモンスターじゃないからな」

「でもリポップするから定期的に討伐依頼がでるんだよ?」

「違う団体が入ってきてるだけだろ」


「あまいよ。今回は弱めのネームドだったけど、次はまた別のネームドが湧くよきっと」

「それ、違う人だよね?」

 盗賊のモンスター扱いがすぎる。正直なところ実際に遭遇しない方法を模索したいというのが、ボクの忌憚なき意見だけどね。


「あーそうそう。わたしは中破してしまったので、一緒にお風呂はいる?」

「な、なんですと!」


「反応ヤバ、うける~。あ、ギャルっぽい?」

 ホント煽られ慣れないよ。でも常に脱ぐまでのプロセスを考えてるのがすげーな。アホだけど。えっちだけど。

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