作戦No.003 無線

「近くまで行けた。でも、倉庫の中には入れてない」


独り言のようにリアンは自分の状況を呟いている。

今喋ることができないドラードに対して報告を兼ねているのだ。


「トラックに邪魔されて燃料がある場所が見えない…」


倉庫周りをぐるぐるするリアン。

右へ左へウロウロと…


だがそんなことをしていたところで意味はない。

彼女は立ち止まり、次の手を考える。



そこでハッと気づく。

つまり、この視界を遮っているトラックに燃料が積まれていなければ良いのだ。

ならば、倉庫にある燃料を見るよりはトラックの荷台を覗き込んだほうが幾分やりやすいはずである。


それを怪しまれずに実行するには、適当な荷物を積み込むをすればいい。


そうと決まればリアンは、燃料がある倉庫の隣へと入り込んだ。

そこに何があるかわからないためとりあえず中を見渡してみると、その倉庫はほとんどが回収されてしまっているようで、隅の方に何かしらが置かれている以外には何もなかった。


倉庫内は外の明かりが差し込むだけなので奥の方はあまりはっきりと見えない。

とりあえず、その何かしらに向かって近づいていくとやがてそれの全容が見えてきた。


見た目から機能を予測すると、おそらくそれは鎧?ではないだろうか。

所々に神秘的とも思える模様が施されている。

リアンは、その鎧がただの鎧だとは思えなかった。何か、嫌な予感がする…


恐る恐るその鎧らしきものに近づいた。

そして手をゆっくりと伸ばしてそれを手に取ろうとする。


「おい!誰だ」


リアンはびっくりして飛び上がり、すぐに声のする後ろの方へ振り返った。


倉庫の入り口に1人の男が立っていた。太陽の光が逆光となってその顔がはっきりと見えないのだが、何故かリアンはその男が誰なのかはっきりわかった。


「……ヴィス…」


一気に絶望感が押し寄せてくる。相手はこちらの存在を認識している。まだ、誰かは特定できていないが、それも時間の問題だろう。


ヴィスが急ぎ足で近づいてくる。

そしてリアンのすぐ目の前で立ち止まった。

流石にここまで近づけば、彼も分かるわけで…


「お前は、アンリか。ここは集合場所じゃないが…どうしてここに」


「ええ…っと……」


頭真っ白で何も浮かばない。よりによってこの男に会うとは…


「確か集合場所は伝えたはずだが………いや、言ってなかったか?」


「え…ええ……2時間後に出撃としか…」


「おお、そうだったか。それはすまなかった。それにしてもここに来るとは…」


どうやらヴィスが怪しんでいる様子はないようで、むしろどこか嬉しそうな気もする。

それを感じ取ったリアンは、少しだけ心に余裕が生まれた。


「なにか手伝えることがないかなって思って」


「おお、それはいいことだ。ならさっきまで作業を手伝ってたのか?」


「いいえ、ついさっきここに来たばかりで何も…」


「だろうな。俺がここの指揮をしてたから居なかったのは分かってる。すでに作業は終わりかけだ。あとは隣の物資をトラックに積んで…お、今終わったようだ」


ブロロロ…

トラックが2人のいる倉庫の入口の前を横切っていく。


「…ところで、これは?」


「これか?」


ヴィスはリアンの隣へ移動し、地面に置かれている例の鎧のような機械を両手で持ち上げた。


「これはな…」


ニヤリと笑い、手に持ったそれを胸の位置に持っていった。


すると…


案の定、というか、予想通りというか。その鎧は動き出し、ヴィスに自動的に覆うように装着された。


「………」


変身シーンというにはかっこよさが足りない。言ってしまえばただ着ただけという印象であった。

が、という雰囲気は更に増している。


「どうだ!俺専用の鎧だ」


ただし、見た目に関しては、美しい装飾が施された、世界観が違えばエルフが着てそうなそれを、比較的大柄で無骨な男が着ている。

感想に困るというものだ。


「い、いいと思う…よ?」


「そうか!」


ヴィスはニカッと快活に笑った。その様子はさながら娘に褒められて喜ぶ父親のようだ。


「仲間にはダサいダサいと言われ続けて、だがもらったものだから着ないわけにもいかないからな…」


「そんなに良さそうに見えないけど?」


「そう思うか?なら集合場所に向かいながら説明してやろう」



―――――あとがき―――――



ここまで読んでいただき感謝します!


でわ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る